株式会社プライムコンサルタント

退職勧奨を行う際の実務上の注意点

Q

能力不足により業績目標を大きく下回っている社員について、会社として改善指導を続けても改善が見られない状況です。
このような社員に対して、退職勧奨を行うことは可能でしょうか。また、どのような点に注意して進める必要があるかご教示ください。

A

今回のご相談のように、「業務遂行能力が著しく劣る社員、勤務態度・協調性に大きな問題がある社員、指導を行っても業務改善に向けた姿勢が見られない社員」などの問題社員について、改善が望めないので退職してもらいたいが、どうすればよいかという相談を受けることがよくあります。企業規模を問わず、このような「ローパフォーマー」への対応は大きな課題といえます。
業績目標を著しく下回る社員や、周囲との協調性に欠け業務に支障を来している社員などに対し、「退職勧奨」という手法を検討する企業も少なくありません。しかし、退職勧奨は進め方を誤ると、後に不当解雇やハラスメントとして紛争化するリスクをはらんでおり、慎重な対応が求められます。今号では、退職勧奨について検討します。

退職勧奨とは何か、その難しさ

退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」とは異なり、労働者に対して自主的な退職を働きかける行為をいいます。形式上は「合意退職」であるため、適法に成立すれば解雇規制の直接的な適用は受けません。しかし、実態として自由な意思に基づく合意だったかどうかが、後に厳しく問われる点に注意が必要で、態様(働きかけの時間や回数、使用者側の人数など)に問題がある場合には、「退職強要」として違法となることがあります。

近年の裁判例で日立製作所事件(横浜地判令2年3月24日)があります。裁判所は一旦退職勧奨に応じない旨を示した従業員に対して、説得を続けること自体は禁止されるものではないが、当該上司(部長)による退職勧奨は、原告が明確に退職を拒否した後も、複数回続き、その態様自体も相当程度執拗としました(理由は職務遂行能力の不足)。また、確たる裏付けがないにもかかわらず、「(他の部署が)受け入れてくれる可能性は極めて低いと思うよ」などと言って退職勧奨しており、違法と判断されました。

能力や成績不良を理由とする退職勧奨は、実務上もっともトラブルになりやすい分野といえます。成果の評価には一定の主観が入りやすく、「本当に退職に値するほどの能力不足だったのか」「配置や指導に問題はなかったのか」といった点が、後に争点となりやすいためです。

裁判例では、単なる成績不振だけでは足りず、①業務内容や目標が具体的に示されているか、②十分な指導・教育が行われたか、③配置転換などの配慮が尽くされたか、といった点が重視されています。

実務で求められる適切なプロセス

ローパフォーマー対応において、いきなり退職勧奨に進むのはリスクが大きいといえます。そのような社員は自分の問題点をまったく自覚していない場合も多く、まずは、客観的事実の整理と適正な手順が不可欠です。会社は業務内容・目標・期待される水準を明確にし、どの点が不足しているのかを具体的に示す必要があります。

以下が、退職勧奨の検討ステップです。

  1. 期待される水準の明示と問題点の明確化
    業務内容・目標・不足している能力を具体的に整理して伝える。
    ・評価記録や指導履歴を客観的に残しておく。
  2. 指導の方針を伝え改善機会の付与
    ・指導計画を作成し、OJT・教育・定期的なフィードバックを実施する。
    ・合理的な期間を設け、改善状況を記録する。
  3. 配慮措置の検討
    ・配置転換、業務内容の変更、業務量の調整など、会社が取り得る対応を検討する。
    ・それでも改善が難しい場合に次のステップへ進む。
  4. 退職勧奨の準備と実施
    ・事実関係・記録・評価資料を整理し、説明内容を確認。
    ・「退職するかどうかは本人の自由」であることを明確に伝えるとともに、必要に応じて退職条件の上乗せを提案するなどして退職の話し合いをする。

退職勧奨の際には、後日、トラブルにならないように侮辱的な発言を避ける、退職を義務付ける、又は退職以外に選択肢がないといった内容にならないように注意することが重要です。

退職勧奨が不調に終わった場合

以上のようなステップを踏んでも退職勧奨を受け入れない場合、最終的な手段として「解雇」を検討する場合も多いと思われます。しかし、退職勧奨はあくまで話し合いによる「合意退職」であるのに対し、会社が一方的に契約を解除する「解雇」には、法律上さらに高いハードルが存在します。

まず前提として、解雇には「客観的・合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。特に能力不足を理由とする解雇は裁判所が厳しく判断する傾向があります。上述した指導・教育・配置転換など、会社として取り得る措置を尽くしたうえで、なお「業務遂行が著しく困難であり、これ以上雇用を継続できない」と客観的に証明できることが重要です。

手順としては、①業務上の問題点とこれまでの指導履歴を整理し、改善困難であることを客観的資料で裏付ける、②本人に対し、現状の問題点と会社の判断を説明し、弁明の機会を与える、③そのうえで、就業規則の解雇事由に該当することを確認し、解雇予告または予告手当の支給を行う、という流れになります。

なお、懲戒解雇は企業秩序を著しく乱した重大な非違行為(横領や長期の無断欠勤など)に対するペナルティであり、単なる能力不足や成績不振では原則、懲戒解雇事由には該当せず、普通解雇の検討に留まる点に注意が必要です。

 

 著者プロフィール

米田徹

特定社会保険労務士/中小企業診断士。

東京都出身。東京大学理学部卒業後、富士通株式会社に入社。
コンピュータの基本OSの企画・開発に携わったのち、事業改革、人事労務管理、企業年金業務など幅広い分野を担当。平成17年に同社を退職し独立、米田経営労務研究所を開設。
現在は、経営全般・人事賃金制度・退職金制度設計を得意分野とし、「キラリと輝く会社づくり・人づくり」をモットーに中小企業のコンサルティングを中心に活動中。

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