事業主が知っておくべき労災保険の基本知識
Q
社員が会社製品を購入した場合、賃金からその額を控除して支払うことにしていますが、その代金が高額になっても(例えば、賃金額の半分程度になっても)差し支えないでしょうか。
A
賃金支払いの際、会社製品購入代金等を控除するためには、会社は、事前に過半数労働組合または過半数代表者と賃金控除に関する協定を締結しておく必要があります。
その協定に基づき控除する項目が会社製品購入代金のように会社が労働者に対して有する代金請求権(債権)に基づくものである場合には「相殺」に当たり、控除できる額は原則として賃金額の4分の1までにでに限られます。
労働基準法第24条第1項本文は、
| 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。 |
と規定していますが、そのただし書において
| ① 法令に別段の定めがある場合 ② 賃金の一部控除に関する労使協定がある場合 |
には、
| 賃金の一部を控除して支払うことができる |
旨定めています。
参考のために、控除協定の例を示しておきます。
|
賃金の一部控除に関する協定書
○○株式会社と○○労働組合(または労働者代表○○○○)は、労働基準法第24条 第1項に基づき、賃金の一部控除に関し、下記のとおり協定する。 記 1 会社は毎月(25日)の賃金の支払いの際、次の各号に掲げるものを控除する。 2 1の(4)及び(5)については、賞与支払いの際、控除することができる。 ○○年○月○日 |
控除するための要件としては上記で説明したとおりであり、労働基準法上、控除額の限度については定められていません。
厚生労働省労働基準局長の通達は、次のようにいっています。
| 〔控除額の限度〕
法第24条の規定による賃金の一部控除については、控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はない。(昭和29.12.23 基収第6185号、昭和63.3.14 基発第150号) |
ところが、この通達は、上記記述に続けて、次のようにいっています。
| なお、私法上は、民法第510条及び民事執行法第152条の規定により、一賃金支払期の賃金又は退職金の額の4分の3に相当する部分(退職手当を除く賃金にあっては、その額が民事執行法施行令で定める額を超えるときは、その額)については、使用者側から相殺することはできないとされているので留意されたい。 |
| 第510条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 |
この規定を賃金債権に関して読み解くと、
ということです。
1例を挙げると、税金等控除後の賃金が40万円のときは、そのうち30万円が差押え禁止額ですから、会社が賃金支払いに際して相殺できるのは、差押えが禁止されていない10万円の範囲に限られるということです。会社製品購入代金が10万円以内の場合は、相殺が可能ですから、賃金控除協定に基づき、控除が可能です。
なお、会社製品購入代金の外、控除する項目の中に会社が労働者に対して有する債権(例えば、社宅使用料、貸付金返済金等)がある場合には、それらも当然、相殺可否の判断の対象になります。上記例の場合、10万円までは相殺、すなわち賃金からの控除が可能ですが、それを超える分は当月分からは無理です。そのような場合は、翌月か、または前記控除協定例にあるように、賞与支払いの際に控除するといった方法があります。
著者プロフィール
昭和43年(1968年)、労働基準監督官、以降、労働省労働基準局監督課中央労働基準監察監督官、同賃金課主任中央賃金指導官、静岡労働基準局次長、滋賀労働基準局長などを歴任し、平成10年(1998年)6月退職。
その後も、主に労働法制を中心とした労働問題の第一人者として活躍。