株式会社プライムコンサルタント

賃金からの会社製品購入費の控除と相殺限度額

Q

社員が会社製品を購入した場合、賃金からその額を控除して支払うことにしていますが、その代金が高額になっても(例えば、賃金額の半分程度になっても)差し支えないでしょうか。

A

賃金支払いの際、会社製品購入代金等を控除するためには、会社は、事前に過半数労働組合または過半数代表者と賃金控除に関する協定を締結しておく必要があります。
その協定に基づき控除する項目が会社製品購入代金のように会社が労働者に対して有する代金請求権(債権)に基づくものである場合には「相殺」に当たり、控除できる額は原則として賃金額の4分の1までにでに限られます。

賃金からの控除ができる条件

労働基準法第24条第1項本文は、

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

と規定していますが、そのただし書において

① 法令に別段の定めがある場合
② 賃金の一部控除に関する労使協定がある場合

には、

賃金の一部を控除して支払うことができる

旨定めています。

  1. 法令に別段の定めがある場合
    ここでいう「法令」には、所得税法、地方税法、健康保険法、厚生年金保険法等が該当し、所得税、社会保険料等についてはこれらに基づき賃金からの控除が認められています。
  2. 賃金の一部控除に関する労使協定がある場合
    事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と賃金の一部控除に関する協定を結んだ場合は、その協定で定めた項目については、賃金支払いの際控除することができます。
    控除の対象となる項目は、
    ・ 労働組合費
    ・ 親睦会費
    ・ 社宅使用料
    ・ 団体生命保険料
    ・ 会社製品購入代金
    ・ 貸付金返済金
    等事理明白なものに限られます(昭和27.9.20基発第675号、平成11.3.31基発第168号)。

参考のために、控除協定の例を示しておきます。

 賃金の一部控除に関する協定書

 

○○株式会社と○○労働組合(または労働者代表○○○○)は、労働基準法第24条 第1項に基づき、賃金の一部控除に関し、下記のとおり協定する。

1 会社は毎月(25日)の賃金の支払いの際、次の各号に掲げるものを控除する。
(1) 労働組合費
(2) 社宅、寮の使用料
(3) 団体生命保険料
(4) 会社製品の購入代金
(5) 各種貸付金の月返済金

2 1の(4)及び(5)については、賞与支払いの際、控除することができる。
3 1に掲げるもののうち、従業員が退職の際未払のものについては、退職金から控除することができる。
4 この協定は、協定の日から3年間有効とする。ただし、有効期間満了後も当事者の何れかが90日前に文書により破棄の通告をしない限り効力を有するものとする。

○○年○月○日
○○株式会社代表取締役○○○○  印
労働者代表      ○○○○  印

控除額の限度

控除するための要件としては上記で説明したとおりであり、労働基準法上、控除額の限度については定められていません。
厚生労働省労働基準局長の通達は、次のようにいっています。

〔控除額の限度〕

法第24条の規定による賃金の一部控除については、控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はない。(昭和29.12.23 基収第6185号、昭和63.3.14 基発第150号)

ところが、この通達は、上記記述に続けて、次のようにいっています。

なお、私法上は、民法第510条及び民事執行法第152条の規定により、一賃金支払期の賃金又は退職金の額の4分の3に相当する部分(退職手当を除く賃金にあっては、その額が民事執行法施行令で定める額を超えるときは、その額)については、使用者側から相殺することはできないとされているので留意されたい。
民事執行法第152条によれば、毎月払いの賃金や賞与については、その額の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)について差押えが禁じられています。カッコ内の政令で定める額とは、現在33万円と定められています(民事執行法施行令第2条第1項第1号、第2項)。
すなわち、賃金額の4分の3に相当する部分が33万円以内のときは、賃金額の4分の3に相当する部分が差押え禁止になります。
賃金額の4分の3に相当する部分が33万円を超えるときは、4分の3に相当する部分が差押え禁止になるのではなくて、33万円が差押え禁止になります。
もう少し端的に言えば、賃金額が44万円以内の場合は、賃金額の4分の3について差押えが禁止され、賃金額が44万円を超える場合には、33万円が差押え禁止となるということです。
以上の計算は、税金、社会保険料控除後の賃金額について行います。
これらの民事執行法第152条に関することについては、こちらで詳しく説明していますので、よろしければ参照ください。
次に、民法第510条の規定は、次のとおりです。
第510条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

この規定を賃金債権に関して読み解くと、

差押えが禁じられた賃金部分については、その債務者(賃金債権の債務者すなわち会社)は、会社が債権者(労働者)に対して有する債権(本件の場合は、会社製品購  入代金債権)と相殺することができない。

ということです。

1例を挙げると、税金等控除後の賃金が40万円のときは、そのうち30万円が差押え禁止額ですから、会社が賃金支払いに際して相殺できるのは、差押えが禁止されていない10万円の範囲に限られるということです。会社製品購入代金が10万円以内の場合は、相殺が可能ですから、賃金控除協定に基づき、控除が可能です。

なお、会社製品購入代金の外、控除する項目の中に会社が労働者に対して有する債権(例えば、社宅使用料、貸付金返済金等)がある場合には、それらも当然、相殺可否の判断の対象になります。上記例の場合、10万円までは相殺、すなわち賃金からの控除が可能ですが、それを超える分は当月分からは無理です。そのような場合は、翌月か、または前記控除協定例にあるように、賞与支払いの際に控除するといった方法があります。

(「相殺」とは、債権者と債務者がそれぞれ相手に対し支払期の来た金銭債権(今回の例のように、賃金債権と会社製品の代金債権)を持っている場合に、その一方からの通告によって対当額の範囲内でお互いの債権を消滅させるものです。相殺を通告する側が有する債権を「自働債権」、通告を受ける側の債権を「受働債権」といいます。「一方からの通告」ですから、相手方の同意は不要です。なお、民法第510条が禁止している「相殺」は差押えが禁止されている債権(賃金のうち一定額)を受働債権とする相殺」であって、会社が有する債権を受働債権とする相殺(労働者側からする相殺)は禁じられていません。)

 著者プロフィール

中川恒彦

昭和43年(1968年)、労働基準監督官、以降、労働省労働基準局監督課中央労働基準監察監督官、同賃金課主任中央賃金指導官、静岡労働基準局次長、滋賀労働基準局長などを歴任し、平成10年(1998年)6月退職。

その後も、主に労働法制を中心とした労働問題の第一人者として活躍。

著者詳細はこちら