株式会社プライムコンサルタント

採用者への労働条件明示ルールの変更

Q

来年度から、採用者への労働条件明示のルールが変更されると聞きました。どのような内容に変わるのか概要を教えて下さい。

A

労働基準法は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(15条1項)。」と規定しています。そして、その具体的な内容は厚生労働省令で定めるとしています。
今般、労働基準法施行規則と告示の改正により、明示すべき労働条件が追加され、2024年(令和6年)4月1日より、施行されることになりました。

この新ルールの適用は同施行日以降に締結される労働契約が対象になり、すでに雇用されている労働者に対して改めて労働条件を明示する必要はありませんが、有期契約労働者の場合、4月1日以降に契約更新する場合は、明示が必要になります。

「就業の場所、従事すべき業務の変更の範囲」の追加

全ての労働者に対する明示事項として、「就業場所・業務の変更の範囲の明示」が新たに追加されました。

現行では、雇入時の就業場所や業務の内容の明示が定められていますが、労働契約関係をより明確にするために、労働契約期間を通じての変更の範囲を明示することが義務づけられることになります。

これらの明示は有期契約・無期契約に関わらず全ての労働者の労働契約の締結の際(有期の場合は契約更新のタイミング毎)に、原則として書面の交付による明示が必要になります。

例(労働条件通知書) ※赤字部分が追加される

・就業の場所 雇入直後:東京本社

変更の範囲:東京23区内

・従事すべき業務の内容

雇入直後:総務業務・経理業務

変更の範囲:会社の定めるその他の業務

上記例の場合、「就業の場所」については東京23区内に勤務地が限定されていることになります。企業は、ここで限定合意された範囲外の場所に労働者の同意なしに配転を一方的に命じることはできません。東京以外など勤務地に限定がない場合は、「変更の範囲:会社の定める事業所」といった記載がなされることが想定されています(厚労省検討会報告書より)。

例えば、テレワークが予定される場合は、自宅等も就業場所の一つになりうると考え、「東京本社又は会社が許可する場所」といった記載が適切と言えるでしょう。

今回の改正が行われる背景には、これまで勤務地や職種の限定の有無が労使トラブルになったり、限定されたはずの内容が一方的に変更される場合等もあったため、紛争の未然防止の観点から労働契約関係を明確化させる狙いがあります。

企業にとっては、将来における就業の場所や従事すべき業務の変更範囲を契約締結時に明示しなければならないわけですから、負担が大きいと言えますが、将来的な紛争を防ぐためにも、社員採用時には慎重な対応が求められることになります。なお、有期労働契約を締結する場合、例えば1年契約であれば、更新する2年目以降の契約期間中に命じる可能性のある就業場所・業務の明示までは求められません(厚労省Q&Aを参照)。

有期労働契約者に対する明示事項等

正社員以外のパートや契約社員と有期労働契約を結ぶ場合、就業の場所、従事すべき業務の変更の範囲に加え新たな明示事項が追加されたので十分注意する必要があります。

現行では、有期労働契約を締結する際には、契約締結時(及び更新時)に、更新の有無と更新の判断の基準を明示する必要があります。今回の改正では、それに加えて、「更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が義務化されました(下図の厚生労働省「モデル労働条件通知書」赤字部分を参照)。

さらに、最初の契約締結後の更新時に、更新上限を新設又は短縮する場合、あらかじめ(新設・短縮する前のタイミングで)その理由を労働者に説明することが必要になります。

以上の改正には戸惑う企業も多いのではないでしょうか。現状、勤続年数の上限を明示している企業は少ないと言われています(令和 2 年の厚労省調査では上限を設定している事業所の割合は 14.2%)。そのような企業においても、今後は、契約更新上限を設ける方向で検討する必要がありそうです。その理由は、「無期転換ルール」の存在と今回の「無期転換申込み機会の明示」に関する以下の改正のためです。

  1. 無期転換申込機会の明示
    「無期転換申込権」が発生するタイミングごとに、無期転換を申込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要
  2. 無期転換後の労働条件の明示
    「無期転換申込権」が発生するタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要

ご承知のように「無期転換ルール」は労働契約法18条に定められたルールで、同一使用者(企業)との間で有期労働契約が更新されて通算5年を超えるときに、労働者からの申込みによって無期労働契約に転換されるものです。

今回の「無期転換申込み機会の明示」に関する改正に対応するために、労働条件通知書には以下のような記載を追加する必要が考えられます(厚生労働省「モデル労働条件通知書」より引用)。

【通算契約期間5年を超える有期労働契約の締結の場合】

本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日( 年 月 日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり))

現状、無期転換ルールに関する知識があるのは有期契約労働者の約4割程度に留まるとの厚労省の調査があります。今回の改正により、自らが無期転換申込権を有していることを認識する社員が増加し、無期転換を希望する社員数が増加することが予想されます。

これまでは、長く残って欲しい有期契約社員もいるという理由で、上限を設定しない運用をしてきた企業も、「上限なし」とした場合のリスクも勘案した上で、今後の対応策を検討する必要があるといえるでしょう。

 

 著者プロフィール

米田徹

特定社会保険労務士/中小企業診断士。

東京都出身。東京大学理学部卒業後、富士通株式会社に入社。
コンピュータの基本OSの企画・開発に携わったのち、事業改革、人事労務管理、企業年金業務など幅広い分野を担当。平成17年に同社を退職し独立、米田経営労務研究所を開設。
現在は、経営全般・人事賃金制度・退職金制度設計を得意分野とし、「キラリと輝く会社づくり・人づくり」をモットーに中小企業のコンサルティングを中心に活動中。

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