株式会社プライムコンサルタント

「傷病手当金」の支給期間の通算化(法改正)

Q

当社の社員(50 歳代)が今年の初めにがんに罹患して、入院期間とその後のリハビリ期間に健康保険の傷病手当金を受給しました。
現在は復職して就労を再開していますが、再発のリスクを抱えているようです。

法改正により、今後は、傷病手当金の支給期間の通算制度が実施されると聞きましたが、すでに受給を開始している人は、通算制度の対象外になるのでしょうか。

A

業務上の傷病には労災保険が適用されますが、私生活上の病気やケガにより休業を余儀なくされた際には健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
健康保険法の改正があり、2022 年 1 月から傷病手当金の支給期間の扱いが変更になります。これまでは、支給が開始された日から最長で 1 年 6 月となっていましたが、改正後は支給を始めた日から、支給期間を通算して(すなわち、不支給期間を除き)1 年 6 月間支給されるように改善されます。
改正の背景には、雇用の高齢化に伴いがん患者が増加していることがあげられます。協会けんぽ(全国健康保険協会)の傷病手当金受給者は、年齢の上昇に伴い、がん(新生物)が増え 55~59 歳では、約 23%と最も多くなります(20 年度)。

医療の進歩により長期にわたり働きながら治療を受けられる可能性が高まっていることから、患者が柔軟に制度を利用できることを目的に法改正が行われました

「傷病手当金」。支給される要件と期間は?

改正事項の説明の前に、傷病手当金の基本事項をおさらいしておきましょう。健康保険の被保険者が傷病手当金の支給が受けられるのは、次の 3 つの要件がすべて満たされることが必要です

① (業務外の)病気、ケガで労務が不能であること
② 療養のため 4 日以上仕事に就けないないこと
③ 休業した期間に給与の支払いがないこと

①②は医療機関(医師)が療養のため労務不能と認めた期間等を支給申請書に記入します。休業は連続する 3 日間(待期期間)の後、4 日目以降からが支給対象日となります。労務不能と認定されれば土日等の公休日を含んでいてもかまいません。例えば、金曜日の就業時間中に気分が悪くなり労務不能になれば、その日を含んで土、日の 3 日間で待期が完成します。

③は休業期間に給与支払いがないことですが、給与の一部が支給される場合は傷病手当金の金額より少ない場合に限りその差額が支給されます(受給期間中にボーナス等の支給があっても調整の対象外です)。
なお、待期の3日間は有給でもかまいませんので、療養開始からしばらくの間は年次有給休暇を使って待期期間を完成させ、傷病手当金の給付は無給になった日から開始することが可能です。(下図は有給休暇 5 日取得後に傷病手当金受給を開始した例

傷病手当金の1日当たりの支給額は本人の標準報酬日額(標準報酬月額÷30)の3分の2の金額になります。

支給日額=(標準報酬月額 ÷ 30日) × 2 / 3

この際の標準報酬月額ですが、2016年に改正があり、支給開始月の直近の継続した12月間の標準報酬月額を平均した額(12月に満たない場合は、直近の継続した期間の標準報酬月額の平均額、又は前年度9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額のうち少ない額)に固定され、以後、本人の標準報酬月額に変更があっても支給日額は変更しない扱いとなりました。

例えば、過去1年間の標準報酬月額の平均が30万円の人なら、1日あたりの傷病手当金の額は1万円の3分の2の6,667円に固定されることになります。

「傷病手当金」の支給期間の通算化(法改正事項)

前述したように、傷病手当金の支給期間が来年1月から通算されます。これまでは、一度職場復帰し傷病手当金が不支給となり、その後、同じ疾病・病気で休業すると、不支給となっていた期間を含めて支給が開始された日から1年6月までしか受給できませんでした。法改正により、途中の不支給期間は除外し、通算して1年6月間の受給が可能になります。

がん治療では、再発により入退院を繰り返すケースが多く、通算化を求める声は以前から多数挙がっていました。がん患者の離職防止や再就職のためにも就労支援を充実させていくことが強く求められているため「治療と仕事の両立等の観点から」、今回の改正に至ったものです。

なお、すでに共済組合(公務員および私立学校教職員が対象)では通算化が認められており、健康保険でも同様の支給期間の考え方を採用しました(図参照)。

さて、新制度施行日は2022年1月1日ですが、施行日前に傷病手当金の受給を開始している人の扱いが気になるところです。その点に関しては、「支給開始から1年6月を経過していない場合には、改正後の通算規定を適用する(改正法の経過措置)」とされているので、2021年12月31日において、歴の通算で1年6月経過していなければ(すなわち、2020年7月2日以後に支給を始めた傷病手当金については)受給期間の通算制度が適用されることになります。

したがって、今回の冒頭の相談者も改正後の通算の扱いが受けられることになり、施行日前までに受給した日数と施行日後に受給する日数が通算化されることになると考えられます。

 

 著者プロフィール

米田徹

特定社会保険労務士/中小企業診断士。

東京都出身。東京大学理学部卒業後、富士通株式会社に入社。
コンピュータの基本OSの企画・開発に携わったのち、事業改革、人事労務管理、企業年金業務など幅広い分野を担当。平成17年に同社を退職し独立、米田経営労務研究所を開設。
現在は、経営全般・人事賃金制度・退職金制度設計を得意分野とし、「キラリと輝く会社づくり・人づくり」をモットーに中小企業のコンサルティングを中心に活動中。

著者詳細はこちら