子ども・子育て支援金制度とは
Q
当社社員が社内規定に違反する不適切な業務処理により、重要な顧客の信頼を低下させる事態を招いたため、1週間の出勤停止とし、同時に、一定以上の顧客対応からはずすことにより職務手当も減額となりました。
社内で、このような取扱いは二重処分に当たるのではないかという疑問が出ていますが、どうなのでしょうか。
A
処分の対象となる1つの行為に対して2つの処分をしてはいけないという法則なり決まりはありません。
憲法及び刑事訴訟法には、「いったん無罪となり、または刑が確定した行為に対して再度刑事責任を問われることはない」という「一事不再理の原則」というものがあり、これは公序として民間にも適用されると考えるべきですが、2つの処分を同時に行うことはこの原則には反しません。
ときどき似たような質問を受けることがありますが、そういった「二重処分に該当するか」という質問の前提には、「労働者の違反行為に対して同時に2つの処分を課してはならない」という法則なり決まりごとがあると考えていらっしゃるのではないかと思われます。 しかし、そのような法則なり決まりごとは存在しません。
存在するのは、次のような規定です。
| 〔憲法〕 第39条 何人も、実行のときに適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。 〔刑事訴訟法〕 第338条 左の場合には、判決で控訴を棄却しなければならない。1~2 (略)3 公訴の提起があった事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。 |
以上の規定がいっていることは、次のようなことです。
| ① 実行のときに違法ではなかった行為を後でできた法律で有罪にすることはできない。 ② 判決により無罪が確定した行為について、再度刑事責任を問われることはない。 ③ 刑が確定した行為について、再度刑事責任を問われることはない。 ④ 公訴が提起された事件について、更に公訴が提起されたときはその控訴は棄却される。 |
以上のことは、①を別として、法学上「一事不再理の原則」といわれています。
ひとことで言えば、
いったん刑が確定した行為について、再度刑事責任を問うことはできない
ということです。
「一事不再理の原則」は刑事法上の原則で、民間にまで当然に適用されるものではありませんが、憲法でそのような規定があるものを、民間だからといって無視していいとはいえず、民間においても公序として適用されると考えるべきでしょう。
裁判例でも、
| 懲戒処分は、使用者が労働者のした企業秩序違反行為に対してする一種の制裁罰であるから、一事不再理の法理は就業規則の懲戒条項にも該当し、過去にある懲戒処分の対象となった行為について重ねて懲戒することはできない
(平和自動車交通事件 平成10.2.6 東京地裁決定) |
といっています。
さて、この「一事不再理の原則」と俗にいう「二重処分の禁止」との違いはもうおわかりいただけたと思います。
たとえば、労働者の行為に対して就業規則の懲戒規定に基づき出勤停止の処分が下され、その後、同じ行為に対して懲戒解雇の処分が下されたとすると、「一事不再理の原則」に反します。
しかし、労働者の行為に対し、戒告と3日間の出勤停止という2つの懲戒処分が同時に行われた場合は、二重の処分ですが「一事不再理の原則」には反しません。
質問のケースは、労働者の1つの行為に対して、出勤停止と職務内容変更に伴う職務手当の減額が同時に行われたものであり、「一事不再理の原則」には反せず、違法となるものではありません。
また、職務内容や担当分野の変更は、一般的には人事の一環として行われるものであり、懲戒として行われるものではありませんから、その面からも該当しないといえるでしょう。
もっとも、職務内容や担当分野の変更の必要性が薄いにもかかわらず、懲罰的に行われる場合もあり得、その場合は、いったん出勤停止という懲戒処分をした後の再度の懲戒処分に該当することになるのかについて検討が必要になる場合もあるでしょう。

裁判例には、懲戒解雇された労働者が「いったん出勤停止の処分があった後、懲戒解雇されたもので、二重処分に該当し、懲戒解雇は無効である」と主張した事件で、
| 懲戒処分としての出勤停止とは、7日以内(期間中の休日を含む)出勤を停止し、その間給与を支給しない処分をいうところ(被告就業規則62条1項3号)、原告に対しては、自宅待機期間中も賃金が支払われたのであるから、右自宅待機は懲戒処分に該当するものではないというべきであり、したがって、本件懲戒解雇が二重処分として無効になるということはない
(ダイエー事件 平成10.1.28 大阪地裁判決) |
としたものがあります。
つまり、この事件における出勤停止類似の期間は、自宅待機として賃金も支払われており、懲戒としての出勤停止ではないと認定されています。
逆にいえば、いったん懲戒処分としての出勤停止をした場合は、出勤停止の原因となった労働者の行為に対して更なる懲戒処分はできないということです。上記で説明したとおりです。
なお、判決が言っていることからも分かりますが、このような問題のときの「二重処分の禁止」というのは、労働者の違反行為に対していったん懲戒処分をした後、その同じ行為に対してさらに処分をすることができないという意味での「二重処分の禁止」であり、1つの違反行為に対して同時に2つの処分を行うことはできないという意味ではないということです。
ただ、簡単にはそのような誤解はなくならないと思われますので、用語の意味を明確にしたうえで判断をすることが必要です。
著者プロフィール
昭和43年(1968年)、労働基準監督官、以降、労働省労働基準局監督課中央労働基準監察監督官、同賃金課主任中央賃金指導官、静岡労働基準局次長、滋賀労働基準局長などを歴任し、平成10年(1998年)6月退職。
その後も、主に労働法制を中心とした労働問題の第一人者として活躍。