スポットワークの仕組みと利用時の注意事項
Q
当社(社員数約30名)は30時間分の残業代を「固定残業手当」として支給しています。以前、ほとんどの社員が月に30時間程度の残業をしていたため、月例給与の安定のために導入し賃金規程にも定めて運用してきました。社員には、固定残業代であることを周知し、また、30時間の残業を超えた月には、超えた部分の差額を時間外割増賃金として別途支給してきました。
しかし、近年では、当社の残業時間も平均20時間を割った状況です。このため、固定残業代を20時間分に減額変更したいと考えますが、可能でしょうか。
A
固定残業代とは、毎月一定の金額を残業代として支給する制度です。たとえば、基本給20万円、毎月の固定残業代5万円(残業30時間分相当)なら、月例給与として25万円が保障されることになります。
すなわち、その月の残業時間が30時間より短くても手当5万円が固定支給され、また、例えば残業が35時間だった月には、30時間を超えた5時間分については、固定残業代に加え別途時間外割増賃金が支給されることになります。
固定残業代の有効性については、「対価性(割増残業賃金として支給されること)」「明確区分性(割増賃金とそうでない部分が明確に区分されていること)」「金額適正(労基法の割増賃金算定額を下回らないこと)」の各要件を満たしている限り、有効な賃金支払方法となります。
固定残業代は、残業時間にかかわらず支給されることから、社員にとってみれば、ダラダラ残業せずに、早く業務を終わらせれば労働単価が上がり、業務効率化を高める効果が期待できます。また、固定支給される給与が増え、見かけ上の賃金が高くなるので、採用活動などにおいても有利に働く面があるため、固定残業代制度を採用している企業は多いといえます。
今回の相談企業では、固定残業代の導入時には毎月30時間程度の残業が発生していたが、現在では残業時間が縮小し、導入当時とは状況が変化しているとのことです。実際、働き方改革における「時間外労働の上限規制」などの効果もあり、日本の労働市場における残業時間は減少傾向が見られます。支払っている固定残業代が、実情にあわなくなってきているため減額したいとする企業が増えている状況です。
以下では、今回の相談例のように、固定残業代を残業実態に合わせて減額することの可否について考えてみます。
固定残業代制度は残業をしてもしなくても支給されるいわば「残業代の最低保障制度」といえます。そうすると、その最低保障額を引下げる変更ですから、労働条件の不利益変更になるとの主張が考えられます。
今回の事例の場合、固定残業手当を30時間分から20時間分に減額したとしても、実際の労働時間が長ければ、それに応じて割増賃金が支給されることに変わりはなく、たとえばある月に30時間以上残業した場合、制度変更前と変更後とで受取れる総額賃金は同額になり不利益は生じません。
しかし、実残業時間が30時間より短い場合には総額賃金が減ることになります。賃金減額になる人がでる以上は、労働条件の不利益変更に該当すると考える人は多いでしょう。
減額変更が不利益変更になると判断されれば、法的な手続きとして、変更には従業員の同意が必要になります(労契法9条)。この同意は従業員一人ひとりが対象になり、労働者代表との合意だけでは足りません(労働組合がある場合は労働組合員については原則、労働組合と合意すれば足ります)。
ただし、労働者側の同意がなければ、労働条件の不利益変更が一切許容されないのでは、長期雇用保障とのバランスが損なわれるおそれがあるため、就業規則による不利益な変更が「合理的なものである」等を満たせば変更も有効とされています(労契法10条)。
しかし、経費削減のために固定残業代を一方的に減額するような場合、企業側の合理性の立証は簡単ではないと言えます。

さて、以下は私見を含み紛争リスクも想定されますが、今回の相談事例のような場合、必ずしもこの変更が労働条件の不利益変更に該当しない、とする主張も可能と考えます。
その根拠としては、割増残業代は労基法などに定められた方法により算定された金額を下回らない限り、これをどのような方法で支払おうとも自由であり、固定残業代の減額は割増賃金の支払い方法の変更にすぎないとする考え方です。
相談者の会社では固定残業代の意味付けや趣旨を明確に社員に周知させ、その運用も適正に行っていたようです。この点から見て、社員の残業時間が大幅に減少している状況に鑑みれば、手当を減額する理由が存在するとも考えられ、たとえ労働者の同意等が得られない場合でも、減額措置は法的に妥当と判断される余地があると考えられます。
以上のように、固定残業代の減額が労働条件の不利益変更に該当するか否かについては、いくつかの異なる見解が考えられます。そこで、実務的に紛争化リスクを避けるために、就業規則(賃金規程等)で、固定残業代を減額できるように、以下に示すような追加の定めを置くことが有効と考えられます。
また、妊娠、育児、その他で残業が免除されているような期間に固定残業代が支給されるのは不合理と考えられる場合には、次のような規定も併せて定めておくべきでしょう。
なお、上記のような定めを置いた上で、実際の残業時間が減少し、固定残業代を減額する際には、経過措置や代替措置を設けることも検討すべきと考えます。たとえば、経過措置として、制度変更後3年間は減額分にあたる部分は調整給を支給する、等です。
また、代替措置としては減額の一部を補う基本給のベースアップや新たな成果給の導入などを含め、労働条件の改善を提案することも有効と考えられます。そして、多数の従業員から同意を得て進めるなど、会社として慎重な対応が求められる事案と言えるでしょう。

著者プロフィール
特定社会保険労務士/中小企業診断士。
東京都出身。東京大学理学部卒業後、富士通株式会社に入社。
コンピュータの基本OSの企画・開発に携わったのち、事業改革、人事労務管理、企業年金業務など幅広い分野を担当。平成17年に同社を退職し独立、米田経営労務研究所を開設。
現在は、経営全般・人事賃金制度・退職金制度設計を得意分野とし、「キラリと輝く会社づくり・人づくり」をモットーに中小企業のコンサルティングを中心に活動中。