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正規・非正規間の不合理な待遇格差の禁止 -2018年9月号-

【ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説】第13回

米田徹先生のプロフィールはこちら

(2018年9月)

Q 当社は従業員数約100名の中小企業で正社員の他に業務内容がほぼ同じの契約社員を多数雇用しています。
 当社の給与規定では基本給の違いに加え各種諸手当(家族手当、資格手当、住宅手当など)や賞与の支給について正社員と契約社員で格差があるのが現状ですが、見直しが必要でしょうか。

A 正社員と非正社員の待遇格差を巡る裁判が相次いでいます。今話題の「働き方改革関連法」「同一労働同一賃金」にも関連する内容ですが、先日(H30.6.1)、最高裁が二つの訴訟の初判断を下したことで関心が高まっています。
 今後の企業実務にも大きな影響を与える判決と考えられます。以下、この問題について検討してみましょう。

◆訴訟の争点は労働契約法第20条

 訴訟の争点になっているのが労働契約法第20条。この条文の違反の有無が裁判で争われているのです。

●労契法20条の内容とは?
 「有期・無期の労働者間における労働条件が「期間の定めがあることにより」相違している場合、当該労働条件の相違は、労働者の①「職務内容(業務内容や責任の程度)」②「職務の内容および配置の変更の範囲(いわゆる人材活用の仕組みの違い)」③「その他の事情」を考慮して「不合理と認められるものであってはならない。」

 すなわち有期・無期の契約の違いで給与などに説明のつかない不合理な待遇差がある場合は法違反になるという内容です。
 この労契法20条違反か否かが争われた訴訟で、先日最高裁が下した初判断とは「ハマキョウレックス(浜松市の大手物流会社)事件」と「長澤運輸(横浜市の運送会社)事件」です。どちらもトラック運転手が起した裁判ですが、以下では、より一般性がある定年前の現役契約社員の格差問題が争われたハマキョウレックス事件(長澤運輸事件は定年後の嘱託ドライバーの訴え)を中心に見てみましょう。

◆ハマキョウレックス訴訟、最高裁判決のポイント

 この訴訟は正規・非正規(ドライバー)間で①「職務内容」に相違はなく、②職務変更範囲(配転、出向や人材育成・活用等)は異なっている事案です。
 正社員に支給され契約社員には支給されていない、「無事故手当」、「作業手当」、「給食手当」、「皆勤手当」の格差について最高裁は「不合理」と判断しました。
 これらの諸手当は、職務内容が同じであれば有期・無期を理由に差異を設けることは認められないとの結論です。
 なお、正社員に支払われている手当のうち「住宅手当」については、正社員は転居を伴う配転が予定され住宅に要する費用が多額になり得るので、今回のケースでは不合理性を否定しました。
 最高裁判決(高裁判断もほぼ同じ)で注目されるのは、同事件の当初の大阪地裁(H27.9.16)では全体的な考察(正社員は出向や転勤、将来会社の中核を担う人材として登用される可能性がある等々)を重視し、「労働条件の個別の相違は会社の経営・人事制度上の施策として不合理とはいえない」、とした判断を根底から覆した点といえます(ちなみに大阪地裁は通勤手当の上限格差のみを違法とし、他の諸手当を有期社員に支給しない点は不合理とはいえないと判断しました)。
 最高裁の今回の判断手法は政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案(平成28年12月)」に沿ったものといえます。不合理性の判定は原則として個々の賃金項目(手当)毎に判断されるということで、これは企業にとっては厳しい負担の重い内容といえると思います。

高速道路トラック.jpg

◆企業の対応(格差解消のため正社員の賃金等を下げてよいか?)

 今回の最高裁判決を受けて、給与規程などの見直しを検討する企業が増えることが予想されます。その際、手当の廃止など正社員の賃金等を引き下げることによって対応してよいかが問題になりそうです。
 その点、政府の提唱する「働き方改革」は、正規・非正規の不合理な待遇差を解消することで「非正規の処遇改善」を図り、賃金の上昇、需要の拡大を通じて経済成長を図ることが狙いです。安易な正社員の待遇引き下げによる格差解消は働き方改革関連法の趣旨に反することは明らかです。
 企業としては労働生産性の向上、製品価格引き上げ等複合的な経営施策により原資を確保し、労働者の全体的な待遇改善につなげることが求められるといえます。
 しかし、どうしても原資が用意できない企業の中には、賃金項目(手当)の廃止や内容の変更(減額等)を検討せざるをえない場合もありえるでしょう。
 その場合は「労働条件の不利益変更の問題(労契法8条、10条)」になり、労働者側の合意、又は不利益変更(正社員の処遇引下げ)にやむを得ない合理的な事情等があるか否かが争点になります。

◆パート・有期労働法への条文移行と改正内容

 今回の裁判で争われた労契法20条ですが、この条文は今後廃止され、「働き方改革関連法(平成30年7月6日公布)」の一つとして成立した、「パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用の改善等に関する法律」)」に移されることになります。
 特に重要なのは第8条で労契法20条を吸収し、より具体的な内容になっています。

●パート・有期労働法第8条【不合理な待遇の禁止】
 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 また、新パート・有期労働法の14条2項では、「企業は労働者の求めに応じ正社員との待遇の相違の内容及び理由等」を説明する義務が新たに課されます(同法の施行は2020年4月。中小企業は1年遅れ)。
 以上のような状況から今後、正社員とパート・有期社員の待遇を考える際には全体的な考察(例:給与総額の差は合理的)だけでは足らず、個別の項目(諸手当、賞与等々)の趣旨を十分考慮することが必要となり、待遇に差異を設ける場合は、何が合理的な理由かをより慎重に判断することが求められることになります。そして、非正社員からの質問(苦情等)には「不合理でない待遇」であることをいつでも説明できるようにしておくことが必要です。

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