1. プライムコンサルタント
  2. 人材マネジメントセミナー
  3. 第93回 中堅・中小企業におけるこれからの管理職のあり方-26-

プライム特選情報

第93回 中堅・中小企業におけるこれからの管理職のあり方-26-

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】

 

(2017年9月)

【第26回 これからのマネジャーに求められるもの(6)】

 こんにちは。人事コンサルタント・CDA・中小企業診断士の渡辺俊です。
 前回、 前々回と、組織開発の有力な手法の一つとして、「共感・発見ミーティング」の事例を紹介しながら、その意味や効果を考えてきました。今回は、その元となっている『組織開発』とは何なのか、その意義や必要性を考えていきたいと思います。

1.従来型の組織運営のあり方

 人事制度の導入や改善を検討する際、クライアントにまず考えていただくのが、「これから、わが社をどんな組織にしていきたいか?」ということです。なぜなら、人事制度(特に、目標管理を中心とした評価制度)は、組織運営のインフラツールでもあるからです。
 「ありたい組織」についてクライアントのお考えを聞いていくと、共通して下記のような声が聞こえてきます。

・社員が、会社のビジョンや理念を理解し、会社と同じ方向を向いている組織にしたい
・社員一人ひとりが自立して、主体的に動く組織にしたい
・部門間の連携がとれている組織にしたい
・個人の成果が、部門の成果、会社の成果に結びついている組織にしたい
・風通しのよいオープンな組織にしたい

 従来は、このような「ありたい組織」を実現するために、多くの企業が個々人の役割や目標を厳密に定義し、階層にもとづく上からの指揮命令によって現場を統制する、次のようなマネジメントの手法を取り入れてきました。

●方針はトップが決め、指揮命令系統を通じてはっきりと伝達される
●部署や階層ごとの役割分担が明確で、自分の仕事がはっきりと決められている(責任の所在が明確)
●一人ひとりが、与えられた仕事をきっちりやることが評価される
●お互いの権利義務をはっきりと主張しあうことを大事にする

 このようなマネジメント手法のタイプを、ここでは「組織A」と呼ぶこととします。
 「組織A」は、一人ひとりが、会社のビジョンと、そこからブレイクダウンされた自身の役割を理解して自律的に動くことにより、個人の成果が、所属部署、ひいては会社の成果に結びつくという信念に基づいて運営されている組織です。
 しかし、「組織A」のように運営すれば「ありたい組織」になるのか?と、あらためて深く考えてみると、「そううまくはいかないよ」というのが、大方の実感ではないでしょうか。「ありたい組織」を思い描き、求め続けているにもかかわらず、「なかなか実現は難しい」というのが、「組織A」の本音ではないかと思います。
 ではなぜ、「そううまくはいかない」のでしょうか。そこには2つの理由があると思われます。
 1つは、組織が、独自の考えや感情を持った人間の集合体だからです。もし組織が、指示・命令に応じて同じように動く機械やロボットの集合体だったとすれば、トップダウンで統制するマネジメントのほうが、効率や生産性を高め、成果への近道になることでしょう。
 しかし、組織の実態は、異なる個の集合体であり、意思を持った有機体です。そうした多様な個に対し、合理性や経済性を盾にした正論でマネジメントをしても、経営の意に沿う方向にコントロールできるものではありません。
 もう1つは、組織を取り巻く環境や状況が、日々刻々と変化しているからです。しかも20世紀の終盤以降、IT技術の急激な進化、グローバル社会の進展などにより、世界各地で起きることが複雑に影響し合う時代となり、その変化は、加速度的、爆発的に力を増し、予測困難なものとなっています。どんなに優秀なトップや幹部であっても、将来を的確に読むのは至難の業です。
 したがって、会社の上層部だけで先を見通して、戦略や計画を立案し、トップダウンで組織に浸透させていくマネジメントスタイルでは、機動的で的確な組織運営ができなくなっているのです。

2.「学習する組織」とは何か?

 では、真に「ありたい組織」を実現するためには、どんなマネジメント手法を取り入れていけばよいのでしょう?
 以下は、「組織A」とは考え方が異なる「組織B」の姿を表しています。

○所属する一人ひとりが、自分たち(組織)はどうありたいか、どんな価値を創り出し、提供すべきかについて、自分の考えを持っている
○会社の方針とお互いの考えが常に触発しあい、共有されている
○自分もわが社のシステムの一員であるという認識があり、何か起きた時にめいめいが自分の責任を自覚できる
○共通目的を認識して協調し連携しあうことを大事にする

 会社のビジョン・理念を起点に、個人の役割や仕事が決まっていくという考え方の「組織A」に対して、「組織B」は、会社のビジョン・理念と、個人の会社や仕事に対する考えや思いが、相互に作用して統合されていくという考え方を持っています。
 「組織A」が計画的に統制された「個の集団」を作り上げるスタンスに立つのに対し、「組織B」は一人ひとり異なる「個」を大切にするスタンスに立っています。「個」を大事にするということは、自分と同じように他も大事にするということです。メンバーは、他の考え方や思いを受容することを大切な前提として行動します。
 「個」と「個」、「個」と「全体」がお互いに影響し合いながら、変容し成長していく組織と言うことができます。このような組織のあり様は、「自己組織化」とも呼ばれています。
 組織が有機体であり、かつ、環境変化の激しい現代においては、「組織B」のほうが環境適応力に優れており、「ありたい組織」の実現への近道なのではないでしょうか。
 「組織B」の特徴は、マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏が1990年代に提唱し始め、以来、世界中で研究と実践が進められている「学習する組織」という概念に集約されています。
 書籍『学習する組織』の日本語版への翻訳者の一人であり、日本での第一人者である小田理一郎氏は、著書『学習する組織入門』(英治出版)の中で、「学習する組織」とは、目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織であると述べています。
 わかりやすくするために、「組織=企業」として、上の文章の意味を読み解いてみましょう。
 下線部の「目的」は会社のビジョンや理念、「行動」は会社のビジョンや理念を実現していくための事業活動における、社員一人ひとりの日々の仕事そのものや、働きと言えるのではないでしょうか。
 ただし、「行動」には「効果的に」という形容詞がついていますので、あらかじめ割り当てられ、定められた静的ものではなく、環境や状況に適応して、臨機応変に創意工夫するといったニュアンスが込められたものだと言えるでしょう。
 つまり「学習する組織」は、会社のビジョンや理念に向かって、環境や状況に応じた効果的な行動を、一人ひとりが常に考え、見つけ、取っていけるよう、組織的に環境や状況の変化を敏感に感じ取る「意識」を研ぎ澄まし、さまざまな事象に柔軟に対応できる「能力」を獲得し、高め、伸ばし続けることをルーティーン(基本動作)にしている組織ということではないでしょうか。
 そのルーティーンこそが、どんな変化に直面しても、その現実に真摯に向き合い、柔軟、迅速、適切に対応していく原動力となるはずなのです。
 「学習する組織」は、一人ひとりが、習得済みの能力を慣習的に発揮し続けることによって、任された仕事を遂行し、その総和で組織の成果を実現する、といった従来の組織運営イメージとは根本的に異なります。過去の遺産に頼るのではなく、現在進行形で組織的に育て、蓄えている内なる動機によって、組織そのものが内部成長を続け、極めて能動的、主体的に振る舞っていく組織なのです。

3.わが社を「学習する組織」にしていくには

 では、どうしたら、「学習する組織」になることができるのでしょうか。
 センゲらは、「学習する組織」を創るには、以下の3つの力をバランスよく伸ばすことが必要だと言っています。そして、それらに対応する5つのディシプリンに取り組んでいくことで、3つの能力を習得していくことができるとしています。「ディシプリン」とは、そのために意識的に実践すべき作法や思考・行動のツボというような意味です。

強い文中表.JPG

 1つ目は、志を育成する力です。これは、自分たちが本当に望む姿(ありたい自分・ありたい組織)を思い描き、そこに向かっていく力であり、次の2つのディシプリンを実践していくことで習得されます。
 1つは、一人ひとりが個人のビジョンを明確にし、深め、それを実現すべく研鑽を積んでいく「自己マスタリー」です。もう1つは「共有ビジョン」ですが、これは、単にトップのビジョンを周知徹底することではありません。メンバー全員で、創り出したい組織の未来像、理念、使命、価値観を描き、これに向かって全員の力を結集していくという組織的な行動です。
 2つ目の能力は、複雑性を理解する力です。これは、観察を通してものごとのつながりと全体像を把握する力です。目の前で起きていること(特に困った問題)がどんな因果関係で生じているのかを分析し、物事のつながりとその変化のパターンを把握し、本質的な改善ポイントを探求し見出していく「システム思考」を高めることで習得されます。
 3つ目は、共創的に対話する力です。これは、個人の思い込みや組織に根づいている慣習・前提に気づき、そこから離れて創造的にものごとを考えていく力です。そのためには、自らの思考の枠組みや癖である「メンタル・モデル」を把握して、自身の考えに固執せず、自身に「本当にそうなのか?」と問いかけ続ける真摯な姿勢を持ち続けることが大切です。そして相手の立場に立ち、相手の考え・意見を受容しながら、共に探求・考察・内省を繰り返し、意識と能力を共同で高める「チーム学習」を続けることによって、共創的な対話力が高まります。
 ディシプリンは、直訳すると「訓練」となるのですが、小田氏はこれを、「日本でいう『〇〇道』に近いもの」と言っています。5つの『道』をこつこつと歩み、極めていくことで、3つの能力が組織に根づき、気がつけば「学習する組織」になっている・・・。
 このように「学習する組織」は、長い時間をかけて少しずつ創り上げられるものであり、実現するには息の長い取り組みが必要です。そして、そんな「学習する組織」を創り上げていく継続的な取り組みこそが、組織の効果と健全性を高める活動である『組織開発』を象徴する取り組みではないかと、私は思っています。

 『キャリア開発』は、一人ひとりの内面にまだ埋もれている開花前の個性や能力の種が、いずれ大輪の花を開かせるように周囲(上司)が行う支援的な働きかけです。そのために土壌を整備し、水や養分をやり、雑草をとっていくような、部下に対する上司の関わり方をこのシリーズでは取り上げてきました。
 であるとするならば、『組織開発』は、個々がお互いの考えや思いを尊重し合い、受け入れ合って、次元の異なる新たな道を見出していくような組織を実現するための相互の働きかけです。
 2つの「開発」について紹介しましたが、いずれにも、個やチームが持つ「内発的な動機」に着目し、そのパワーを目覚めさせようという意図があるように感じます。そしてこの「内発的な動機」こそが、企業にも社会にも行き詰まり感のある現代の環境において、さらなる成長や展開の芽を見つけ出していく原動力になると期待されています。
 『組織開発』も『キャリア開発』と並んで重要な、組織の成果・成長を担う管理者の新たな役割だと言えるのではないでしょうか。

 

 

本連載は、下記の当社コンサルタントが順次、執筆いたします。
菊谷寛之(代表)
渡辺俊(中小企業診断士)
田中博志(中小企業診断士)
津留慶幸(特定社会保険労務士)

このページの先頭へ