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第9回「環境変化と日本の労働市場の変容」~駆け出し人事コンサルタントの学習・成長ブログ~

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】通算第106回

(2018年7月)

こんにちは。人事コンサルタント(社会保険労務士・中小企業診断士)の古川賢治です。



 前回は、「派遣労働者の就業実態および活用」について学習しました。
 今回は、「環境変化と日本の労働市場の変容」と題し、今起きている人手不足の原因や産業別雇用者数の推移について学習します。また、国際的な賃金の推移を理解するため、日本の企業収益と雇用者報酬の関係にも触れます。日本の労働市場で何が起きているかを一緒に考えていきましょう。

1. 環境変化と労働需要・供給の変化


① 人手不足の原因

今回は、環境変化と日本の労働市場の変容について学習します。突然ですが、現在あらゆる企業で問題となっている人手不足の原因が何であるか知っていますか?


今叫ばれている人手不足の大きな原因は、人口減少だと思います。


そうですね。そもそも人手不足とは、労働需要(求人数)が労働供給(求職者数)を上回っている状態のことを言います。現在の人手不足は、人口減少による労働供給の減少と経済回復による労働需要の増加が重なっていることが主な原因です。2018年5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.60倍を記録し、1974年1月(1.64倍)以来の高水準だそうです。まさに労働需要が労働供給を上回っている状態であり、この動きは今後も継続していくでしょう。


人手不足の状況下、どの企業も人材を獲得するために様々な策を講じています。採用競争力に乏しい企業は苦戦を強いられる状況がこれからも続くのですね。ところで、労働市場に関して、産業別に違いなどは見られますか?


② 産業別雇用者数の推移と産業構造の変化

はい、産業の違いによって労働需要・労働供給の変化にも違いが見られます。次の図表1を見てみましょう。これは、産業別に雇用者数の推移を示したものです。


図表1 産業別雇用者数の推移
産業別雇用者数の推移

資料:総務省「労働力調査」より作成

図表1を拡大表示するにはここをクリック

これを見ると、建設業や製造業など第2次産業に従事する雇用者が減少している一方で、医療・福祉業など第3次産業に従事する雇用者が増加していることが分かります。


建設業においては、1998年には548万人だった雇用者数が、2017年には407万人に減少しています。約20年間で141万人も減少したのですね。


これは、政府が進めてきた公共事業縮小の影響が大きいと考えられます。ちなみに、製造業の雇用者数は2010年に1,000万人を下回ってしまいましたが、2017年に1,006万人となり、再び1,000万人を上回りました。


産業構造が第2次産業から第3次産業へとシフトすることによって、労働需要や労働供給も大きな影響を受けているのですね。


そうです。実は、労働市場全体における男女比率にも変化が起きているのですよ。2017年現在、医療・福祉業に従事する雇用者の総数は786万人ですが、うち602万人が女性です。つまり、医療・福祉業の全雇用者の約77%が女性であるということになります。その一方で、建設業では約84%、製造業では約70%の雇用者が男性となっています。したがって、産業全体で見ると、女性の労働需要が高まっていると言うことができます。


なるほど。ところで、雇用者報酬についても教えてください。産業別雇用者数の変化のように、雇用者報酬にも何か変化があるのでしょうか?


2. 雇用者報酬の変化と今後の課題


① 日本の雇用者報酬の動き

雇用者が受け取る賃金についても変化が見られます。次の図表2を見てみましょう。これは、欧米先進諸国と日本の製造業の時間あたり名目賃金指数の推移を示したものです。2000年の賃金を100として各年の賃金を指数化しています。


図表2 製造業の時間あたり名目賃金指数の国際比較
製造業の時間あたり名目賃金指数の国際比較

(注)横軸の目盛は、2000年~2010年は5年刻み、2010年以降は1年刻み
資料:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」より作成

図表2を拡大表示するにはここをクリック

表中のアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス各国の名目賃金は、いずれも2000年から2016年の16年間で約1.5~1.6倍まで増加しています。しかし、日本だけは2000年以降横ばいで変化がないように見えます。


そうですね。程度の差はあれ、欧米先進諸国は順調に名目賃金が増加しているのに対し、日本はほとんど変わっていません。


日本では、2000年から2016年までの間、企業収益が伸び悩んだために企業は賃上げに踏み切れなかったということでしょうか?


鋭い指摘ですね。しかしこの間、企業収益は増加を続けているのです。賃金が伸び悩んだ理由は複数考えられるのですが、ここでは、企業収益と賃金の関係で見たときに何が起きているかをお伝えします。次の図表3を見てみましょう。これは、1995年度の数値を100とした場合の経常利益および雇用者報酬の21年間の伸びを示したものです。


図表3 企業収益と雇用者報酬の関係
企業収益と雇用者報酬の関係

資料:財務省「法人企業統計」および内閣府「国民経済計算」より作成

図表3を拡大表示するにはここをクリック

これを見ると、1995年度から2016年度までの21年間で企業収益は約2.85倍に増えているのに対し、雇用者報酬はほとんど変化していません。一体どういうことなのでしょうか?


ここから言えることは、「企業収益は伸び、日本企業の稼ぐ力が強まっているにも関わらず、雇用者への分配増加はなかなか実現していない」ということです。ちなみに、2014年度以降は雇用者報酬の上昇基調が続いていますが、これは政府の積極的な働きかけ、いわゆる「官製春闘」の影響です。


確かに、ここ数年は政府主導による賃上げが続いています。企業が獲得した利益を、賃上げや投資活動に積極的に活用してもらうことによって景気の好循環を形成したいとの考えだそうです。図表3を見ると、2013年度まではそうした動きが非常に弱かったわけですね。長い間、「実感なき好景気」と報道されてきた意味が少し理解できるような気がします。


そうかもしれませんね。ただ、雇用形態別に調べてみると、過去15年間、賃金が上昇し続けている雇用者もいます。実は、パートタイム労働者はほぼ一貫して賃金水準が上がっているのです。


具体的には、どれくらい上昇してきているのですか?


それについては、次の図表4を見てみましょう。これは、雇用形態別に賃金の増加率を対前年比で示したものです。


図表4 一般労働者とパートタイム労働者の賃金の動き
一般労働者とパートタイム労働者の賃金の動き

資料:厚生労働省「2017年毎月勤労統計調査」より

図表4を拡大表示するにはここをクリック

確かに、一般労働者の賃金の伸びはゼロ付近で推移していますが、パートタイム労働者の時間当たり賃金は前年比増が続いていますね。パートタイム労働者の賃金は、平成25年(2013年)以降は毎年1%以上増えており、平成29年(2017年)は2.4%も増加しています。しかし、パートタイム労働者の賃金増が続いているのに、なぜ全体の雇用者報酬は伸びていないのでしょうか?


それは、全雇用者に占めるパートタイム労働者の比率が高まっていることが影響しています。通常、パートタイム労働者の賃金は一般労働者と比較して低いことが多いため、パートタイム労働者の比率が高まると、それに引きずられて全体の雇用者報酬が抑えられてしまいます。


なるほど。それでは、今後、日本の雇用者報酬を増やしていくには、どうすればいいのでしょうか?


② 日本の雇用者報酬の増加への課題

今後、日本の雇用者報酬を増やしていくには、パートタイム労働者を含めた、いわゆる「非正規社員」の賃金を増やしていくことが必要です。そのために政府は、働き方改革関連法の一つに「同一労働同一賃金」を盛り込みました。これにより、正社員と非正規社員の賃金格差の是正が期待されます。


同一労働同一賃金には、そのような狙いもあったのですね。その他に、何か有効な策はありますか?


その他にも、「デフレマインド」や「日本的雇用慣行」からの脱却が唱えられています。


法的拘束力のある同一労働同一賃金によって非正規社員の賃金が上昇していけば、雇用者報酬の増加も実現しそうですね。教授、本日はありがとうございました。



今回の連載内容は、2017年5月10日の講義を参考に執筆しました。
東京労働大学講座「環境変化と労働市場」(樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授)

※東京労働大学講座は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が毎年度開催している、労働問題に関する知識の普及や理解の促進を目的とした講座です。今年度で66回目を数え、これまでの修了者は27,000人を超える歴史と伝統を誇る講座です(2018年1月時点)。


本連載は、下記の当社コンサルタントが順次、執筆いたします。
菊谷寛之(代表)
渡辺俊(中小企業診断士)
田中博志(中小企業診断士)
津留慶幸(特定社会保険労務士)
古川賢治(社会保険労務士・中小企業診断士)

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