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第3回「労働時間管理の現状と課題」~駆け出し人事コンサルタントの学習・成長ブログ~

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】通算第100回

(2018年2月)

こんにちは。人事コンサルタント(社会保険労務士・中小企業診断士)の古川賢治です。



 前回は、「多様な働き方の展開と課題」について学習しました。
 今回は、「労働時間管理の現状と課題」と題し、日本と先進諸国の年間実労働時間の国際比較データや国内就業形態別の年間実労働時間データをみていきます。また、フレックスタイム制や裁量労働制などの導入による「労働時間規制の弾力化」について考え、ホワイトカラー労働が抱える問題点に迫ります。

1. 労働時間管理の現状


今回は、「労働時間管理の現状と課題」について学習します。突然ですが、なぜ企業は社員の労働時間を管理する必要があるのでしょうか?


それは、法律によって1日や1週の労働時間の長さが規制されているからじゃないでしょうか。


まさしくその通りですね。労働時間管理が必要な大きな理由には、いま挙げられたものを含めて、大きく2つあります。それは、①労働基準法(以下、労基法)によって規制※されているから、②人的資源(ヒト)であるが故の特質を持っているからです。


※原則として、1日8時間または1週40時間を超えて労働させてはならない(労基法第32条1項および2項)

①については分かりますが、②の「特質」とは何を指すのでしょうか?


一つは、ヒトの労働能力は有限であり、日々の生活を通じた再生産が必須だという性質です。もう一つは、ヒトには生理的・心理的限界があり、過大な労働負荷によって健康障害が発生するという性質です。これらの性質が存在することから、企業は社員一人ひとりの労働時間を管理し、仕事と生活の調和を通じた労働能力の再生産を促すことで、貴重な人的資源を経営に有効活用しなければならないのです。


確かに、私たち人間は働けば疲れて睡眠が必要になりますし、過重労働によって脳・心臓疾患やうつ病を発症しやすくなるという医学的根拠も証明されていますね。


労働時間管理の必要性が分かったところで、次に、一人あたり平均年間実労働時間の推移に関する国際比較データ(図表1)を見てみましょう。なお、この指標は一国の時系列比較のために作成されており、データ源の違いから特定年の各国間比較には適さないことに留意してください。


図表1 1人あたり平均年間実労働時間の推移(国際比較)
対象国 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2015年 2016年
日本 2,031 1,884 1,821 1,775 1,733 1,719 1,713
アメリカ 1,831 1,844 1,834 1,795 1,774 1,786 1,783
イギリス 1,765 1,731 1,700 1,673 1,650 1,674 1,676
ドイツ 1,578 1,534 1,452 1,411 1,390 1,368 1,363
フランス 1,705 1,651 1,535 1,507 1,494 1,482 1,472

資料:OECD Data(https://data.oecd.org)より作成(2018年2月現在)

残業を含む実際の年間労働時間データを、日本と欧米先進諸国で推移を比較したのですね。こうして見ると、日本の労働時間は1990年の2,031時間から2016年の1,713時間へと、26年間で300時間も短くなっているのですね! 他の先進諸国と比較してもその減少率は大きいと思います。


確かに、これだけ見ると日本の年間実労働時間は大きく減少したように見えます。しかし、これはフルタイム社員だけでなくパートタイム社員を含んだ指標となっているため、正確に実態を捉えようとするならば、フルタイム・パートタイム社員を区分したデータが必要です。それに関しては、次の図表2を見てみましょう。


図表2 就業形態別1人あたり平均年間実労働時間 の推移(日本)
就業形態 2000年 2005年 2010年 2015年 2016年 2017年
フルタイム社員 2,026 2,028 2,009 2,026 2,024 2,026
パートタイム社員 1,168 1,140 1,096 1,068 1,050 1,033

資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査(事業所規模5人以上)」より作成

先ほどの図表1と変わって就業形態別で捉えてみると、フルタイム社員の年間実労働時間は2,000時間を超えるあたりを推移していて、実に15年以上も変化していなかったのですか! これは一体、どういうことなのでしょうか?


①図表1の数値はフルタイム・パートタイム社員を総合したものであること、②図表2のフルタイム社員の年間実労働時間は変化していないこと、ここでは詳細なデータは示しませんが、③昨今、日本の雇用から無限定な働き方をするいわゆる「フルタイム正社員」が減少していることの3つを考慮すると、パートタイム社員を中心とした残業の少ない非正規社員が増加してきていることが、図表1での労働時間の減少に大きく寄与していると考えられます。


なるほど、純粋な労働時間の減少というよりは、雇用構造の変化が関係しているのですね。そうすると、なぜフルタイム社員の労働時間の短縮化は進んでいないのでしょうか?


様々な要因が考えられますが、硬直的な労働時間規制が一つの理由になっているのかもしれません。


硬直的な労働時間規制とは具体的に何を指すのですか?また、それを取り除くための課題があれば教えてください。


2. 今後の課題


労基法は1947年に制定された法律であり、当時中心だった工場労働を念頭において1日および1週の労働時間に硬直的な労働時間規制を設けました。しかし、その後の経済成長によって第3次産業の拡大が進み、ホワイトカラー就業者が増大したことで、前述の労働時間規制がうまく機能しない場面が増えてきたのです。


なるほど。そうした背景から、1987年と1998年に労基法が改正され、フレックスタイム制、事業場外みなし制・裁量労働制などの新たな働き方が生まれたのですね。


そうです。これらの一連の動きは「労働時間規制の弾力化」と呼ばれていて、こうした傾向はいまも引き続いています。


1日の始業・終業時刻が自分で選択できるフレックスタイム制、仕事のやり方と時間配分を自らの裁量で決定できる裁量労働制の導入は、社員が自らの労働時間を管理できるようになることを意味します。そのような柔軟性のある働き方が進めば、企業が社員の労働時間を管理する必要性は薄れていくのでしょうか?


確かに、ホワイトカラーの仕事が、投入した労働時間と成果の量が比例しないという性質を持つことを考慮すると、裁量性の大きいホワイトカラーには厳格な労働時間規制がなじまない一面もあります。しかし、だからといって労働時間管理が不要になることまでは意味しません。なぜなら、企業には社員に対する安全配慮義務があるからです。


安全配慮義務というと、「労災でケガを起こさないように注意する」などのことですか?


それもそうですが、ここでは長時間労働を抑制することで健康障害を防ぎ、社員の心身の健康を守ることも含みます。こうした側面から、労働時間管理の必要がなくなることはありません。


ホワイトカラーの仕事には厳格な労働時間規制がなじまないけれども、健康障害を防ぐためにも労働時間のチェックは必要だということですか。企業としては非常に難しい問題ですが、今後の課題があれば教えてください。


まさしく多くの企業が難解な問題を抱えているのです。今後の課題は、仕事の成果を目標達成度で評価する際は目標設定(労働負荷)の妥当性を重視すること、管理者が部下の自己管理能力を見る目を持ちユニット(部や課)内での仕事量と人員のバランスを調整すること、ホワイトカラーの裁量の程度に応じて多様な賃金制度を構想することなどを通じて、仕事量の適正化をはかり過重労働にならない仕組みをつくることだと考えます。


労働時間規制の弾力化と同時に、仕事と生活の調和を実現するためには、過大な労働負荷につながらない仕事量の適正化が大切なのですね。教授、本日はありがとうございました。



※今回の連載内容は、2017年4月24日の講義を参考に執筆しました。
東京労働大学講座「労働時間管理」(佐藤厚 法政大学キャリアデザイン学部教授)

*東京労働大学講座は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が毎年度開催している、労働問題に関する知識の普及や理解の促進を目的とした講座です。今年度で66回目を数え、これまでの修了者は27,000人を超える歴史と伝統を誇る講座です(2018年1月時点)。


本連載は、下記の当社コンサルタントが順次、執筆いたします。
菊谷寛之(代表)
渡辺俊(中小企業診断士)
田中博志(中小企業診断士)
津留慶幸(特定社会保険労務士)
古川賢治(社会保険労務士・中小企業診断士)

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