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第37回 ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化-9-

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】

 

(2014年10月)

 皆さんこんにちは。コンサルタント・社会保険労務士の津留慶幸です。
 最近、政府が年功賃金を是正し、若い世代・子育て世代の所得に配慮するよう求めているということが報道されました。
 他にも、妊娠した社員を降格させたことについて、初めて最高裁判決が下されるなど、人事労務に関する世界にも様々な変化が起きています。
 人事労務問題は、社会の変化や経済動向の影響を受けますので、今後も皆さんのお役に立つ情報をお伝えしていきたいと思います。

 前回は、名ばかり管理職問題に関する通達や裁判例を紹介し、行政・裁判所が考える管理職(管理監督者)について解説しました。
 今回も引き続き、この名ばかり管理職問題を考えていきたいと思います。

4.名ばかり管理職問題

(3)名ばかり管理職が生まれる背景

 前回もご紹介した通り、「名ばかり管理職」という言葉が世間に知られるきっかけになった 「日本マクドナルド事件」から6年以上が経ちました。
 当時、様々なところで取り上げられ世間を賑わせましたが、いまだにこの問題を抱えている会社は少なくありません。なんとなく問題だと思っている経営者、人事担当者も何から手を付けていいのかわからず、そのままになっているというのが実情ではないでしょうか。

 実際、コンサルティングの現場で話を聞いてみると、「名ばかり管理職」が生まれる背景には実に様々な要因があると感じます。

 以下は、よく耳にする代表的な要因です。

i)法律・基準等がわかりにくい(具体的に何が悪いのか認識しにくい)
ii)人件費コストの抑制
iii)社員のモチベーション
iv)営業等の対外的な影響
v)仕事の複雑化・成果主義の浸透

 これからそれぞれを詳しく見ていきましょう。

i)法律・基準等がわかにくい(具体的に何が悪いのか認識しにくい)

 法律や裁判例、通達など詳しいことは前回ご紹介したのでここでは省略しますが、1つ言えることは、「労基法上の管理監督者とはこういうものです」という絶対的な基準はないということです。
 よく、「何が悪いか具体的にわからないので、何となくそのまま」であったり、「(客観的に見れば問題があるが)うちの管理職は大丈夫でしょう」とおっしゃる経営者にお会いすることがあります。

 もし誰もが一目でわかるような基準があれば、こういったことは今より少なくなるのではないかと思います。
 その反面、法律等で厳しい制限が設けられると、会社の自由な経済活動に支障を来す恐れもあるため、絶対的な基準が本当によいとは言い切れないようにも思います。
 また、法律に関わることは一企業では対応できないため、まずは、今の法律や通達、過去の裁判例、最近の裁判・行政の取締りの動向などをしっかりと理解することが最善の対策でしょう。

 

ii)人件費コストの抑制

 名ばかり管理職問題を考えるときに、真っ先に話題にあがるのがコストの問題です。
 おそらく、名ばかり管理職を抱える会社で、「コストは関係ない」というところはないのではないでしょうか。

 多くの会社は、残業代を支払ったらコスト増に耐えられないのではという不安から手が打てないままになっています。そのような会社では、単純に名ばかり管理職社員に残業代を支払いましょうというわけにはいきません。

 そこで考えられる代表的な対策は、

A:売上・利益を増やしてコスト増に耐えられるようにする
あるいは、
B:残業代を適切に支払っても問題がないように残業時間を抑える
ということになります。

 A・Bどちらも難しいと言われるかもしれませが、どちらかを選択するとなればBのほうが現実味があるのではないでしょうか。
 Bの残業時間削減は、以前にご紹介した「長時間・過重労働問題」や「サービス残業問題」にもつながっています。詳しくは、本シリーズの第30回31回32回(長時間・過重労働問題)、および、第33回34回35回(サービス残業問題)をご覧ください。

iii)社員のモチベーション

 コストの抑制に次いでよくあげられる要因として、社員のモチベーションの問題があります。
 わかりやすくいうと、管理職になること(いわゆる昇格・昇進)は「名誉」であり、それで社員がやる気になったり会社への忠誠心が高まるということです。
 裏を返せば、管理職になれないとモチベーションがあがらないということになります。

 管理職になりたがらない若者が増えたと言われ、以前より「管理職になる=モチベーションの向上」という関係は弱まったと思いますが、今でもなお、社員のモチベーション管理の一環として管理職扱いをしている会社はあります。

 この問題の複雑なところは、「名誉」「モチベーション」のためなので、労基法上の管理監督者と認められる要件を満たしていないにもかかわらず、賃金制度上の取り扱いが変わって、ほとんどの場合において残業代が支払われなくなるということです。
 役職名だけ管理職にして、残業代を適切に支払うのであれば名ばかり管理職問題は発生しませんが、そのような制度の会社はまだ少ないようです。
 この問題には、次のような対応が考えられます。

A:上記のように、会社の職制上は管理職だが残業代は適切に支払う
B:管理職にすること(昇格・昇進)以外で社員のモチベーションを向上させる
(他にも、管理監督者と認められるだけの権限と処遇を与えるということも考えられます)

 Aを考えるときは上記ii)と同じことを検討することになります。
 Bは、本人の思考・組織風土・その他周囲の環境の影響も大きく、一朝一夕に変えられるものではありません。
 会社は、社員にどのように活躍しどのようにキャリアステップを描いてもらいたいのか、社員は自身の将来像をどのように描くのか。また、本当の働きがいとは何かを地道に考え、共有する場を繰り返し持つ必要があります。

iv)営業等の対外的な影響

 ii)のコストや iii)のモチベーションに比べると小さな問題ですが、意外とよく聞くのが対外的な問題です。
 わかりやすく言うと、名刺にそれなりの肩書がついていたほうが営業やクレーム対応の際に効果的だということです。
 私も一人のビジネスマン、消費者として理解できる部分があります。地位が高い人が対応してくれていると思うと安心感があるのは確かです。
 問題は、対外的な対応のためにつけた肩書がそのまま社内の人事制度に直結しており、必要以上に管理職(名ばかり管理職)を生んでしまっているということです。

 もちろん、お客様に対する重大な責任を担い、社内でも相応の権限のある人物であれば、管理職と認められる可能性もあると思いますが、営業やクレーム対応を円滑に進めるためという理由では、まず認められないでしょう。
 対外的な肩書と社内の処遇・残業代の支払いは切り離して考える必要があります。

v)仕事の複雑化・成果主義思想の浸透

 最後に、仕事の複雑化と成果主義思想の浸透があげられます。
 知的労働が増え仕事が複雑になったことで、労働時間と成果が必ずしも比例しなくなっていることは多くの人が感じていると思います。

 また、一時期、成果主義がブームになり、成果に対して賃金を払う(払いたい)という考えが広まりました。
 成果主義の人事制度自体は失敗に終わった会社も多く、見直しの時期に来ていますが、その考え方は今でも残っています。

 これらの要因により、特に経営者の中に、労働時間・残業時間に応じた賃金を払うことに抵抗があるという人が増えたのではないでしょうか。
 ホワイトカラーエグゼンプションの議論も、このような背景があって検討されているのだと思います。

 しかし、まだ残業代支払いや管理監督者に関する法律は何も変わっていません。
 ホワイトカラーエグゼンプション自体は、そもそも残業代の支払いが不要な管理監督者と直接の関係はありませんが、現在検討されているホワイトカラーエグゼンプションが導入されたとしても、適用対象となる人は多くないでしょう。

 以上、名ばかり管理職が生まれる背景についてご紹介しました。
 ここであげたものは代表的なものであり、細かな事情は会社ごとに様々だと思います。
 すぐに対応できるものもあれば、時間をかけた対応が必要なものもありますので、まずは自社の状況を的確に把握するところから始めてください。

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本連載は、下記の当社コンサルタントが順次、執筆いたします。
菊谷寛之(代表)
渡辺俊(中小企業診断士)
田中博志(中小企業診断士)
津留慶幸(社会保険労務士)

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