1. プライムコンサルタント
  2. 人材マネジメントセミナー
  3. 第33回 ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化-5-

プライム特選情報

第33回 ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化-5-

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】

 

(2014年8月)

 皆さんこんにちは。コンサルタント・社会保険労務士の津留慶幸です。
 前回まで、「長時間・過重労働問題」について解説してきました。
 今回からは、それとも関係の深い「サービス残業問題」について話をしていきたいと思います。

 最近の報道では、事務職などホワイトカラー労働者を対象に週40時間といった労働時間規制や時間外手当の適用を外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」が導入されるのではないかという話もあります。
 ただ、今後のことはまだわかりませんので、ここでは考慮しないことにします。

3.サービス残業問題

 厚生労働省が平成25年9月1日に実施した全国一斉の無料電話相談(詳細は第29回参照)では、「賃金不払残業」(サービス残業)に関する相談が53.4%にのぼりました。
 このことからも、従業員がいかにこの問題に関心があり、また不満を持っているかがわかります。

 一方で、経営者の方とお話をすると、「きちんと残業代を支払っていないから不安だ」という方もいらっしゃいますが、中には「当社は全員みなし残業だから問題ない」、「残業代は賞与に上乗せして支給しているから大丈夫」という声も耳にします。

 一般的に、事務員を含めた社員全員がみなし労働時間制(後述)の適用対象という会社はほとんどないはずですし、残業代を毎月の給料ではなく賞与としてまとめて払うこともできません。
 このような場合、経営者は自分が正しいと思い込んでいるため、従業員の不満に気づかなかったり、気づいても従業員の方が悪いと思って適切な対応をとらないまま不満が大きくなり、取り返しのつかない事態になることが少なくありません。

 サービス残業問題を考えるためには、残業代の適切な計算方法、自社の職種や働き方に合った支払い方とはどのようなものかを知る必要があります。
 今回はまず、残業代支払いに関する基礎的な知識についてご紹介したいと思います。

(1)残業代の計算方法

 皆さんの会社では残業代はどのように計算していますか。
 よくご存じの方には今更かもしれませんが、通常、

算定基礎(時給)×1.25×残業時間
 (※大企業の残業60時間超分は1.25ではなく1.5)

という計算式を用います。

 では、「算定基礎(時給)」はどのように計算していますか。
 賃金項目は会社によって異なるため、次のような賃金が支給されている会社を想定して考えてみたいと思います。

・基本給
・資格手当(保持している資格に応じて支給)
・家族手当(扶養家族の人数に応じて支給)
・調整手当(社長裁量で支給)
・通勤手当(定期券代の実費を支給)

 この会社の場合の算定基礎(時給)は、

(基本給+資格手当+調整手当)÷月の所定労働時間

となります。

 ポイントは、この会社の場合、資格手当も調整手当も算定基礎に入れなければならないということです。
 間違っても「基本給÷月の所定労働時間」で計算してはいけません。

 残業代の算定基礎に含めなくてもよいものは次の7つと定められており、会社が自由に決めることはできません。

1)家族手当(家族の人数等に応じて支払われるもの)
2)通勤手当(通勤費、通勤距離等に応じて支払われるもの)
3)別居手当
4)子女教育手当
5)住宅手当(住宅に要する費用等に応じて支払われるもの)
6)臨時に支払われた賃金
7)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 この7つ以外のものは全て残業代の算定基礎に含める必要があります。
 また、この7つに該当するかどうかは手当の名称ではなく実態で判断されますので、名称だけ家族手当にして支給ルールは家族と関係がないといったものは該当しません。

 さらに、家族手当や通勤手当、住宅手当といった名称であっても、一律支給(人数や距離、家賃負担等に応じて支給額が変わらない)の場合は残業代の算定基礎に含める必要がありますので注意してください。

(2)固定残業代とみなし残業制

 次に、残業代の支払い方についてみていきたいと思います。

 残業代は原則、残業した時間に応じて支給する必要がありますが、いくつか例外的なパターンも認められており、整理すると次のようになります。

1)(原則)実際の残業時間に応じて支払う

2)あらかじめ定めた一定時間分(一定額)を固定的に支払う
ただし、実際の残業がその一定時間(一定額)を超えた場合は、超過分を追加支給する

3)「みなし労働時間制」を適用し、必要な労働時間をあらかじめ定める
その労働時間が法定(所定)労働時間を超えている場合、その超えた時間分について支払う
実際の労働時間があらかじめ定めた時間を超えたとしても、追加支給しない

(例:所定労働8時間の会社がみなし労働時間制を適用し、9時間働いたものとみなすと決めていた場合、1時間分の残業代が発生する。たまたま8時間しか働かなかったり、9時間30分働いたりしても残業代は1時間分となる。ただし、あらかじめ定めた労働時間(この例では9時間)を恒常的に超えるような場合は追加支給を命じられる可能性あり

 1)は通常の支払い方なのでここでは説明しませんが、2)と3)は混同していたり、誤解している方がいらっしゃるかもしれません。

 2)の支払い方(以降「固定残業代」と呼ぶ)と3)の支払い方は似ているようで大きく違います。
 どちらも、あらかじめ定めた一定時間分(一定額)を残業代として支払うという点においては共通していますが、2)の固定残業代は実際の残業時間が一定時間(一定額)を超えた場合、その超過分を別途支払う必要があります。

 つまり、残業時間があらかじめ定めた時間よりも長い場合、1)も2)も同じ金額を支払うことになります。
 このことから、2)の固定残業代は1)の原則的な支払い方の変則型のようなイメージと考えてもらったほうが良いかもしれません。

 一方、3)の「みなし労働時間制」の場合は適切に運用していれば超過分を支払う必要がありません。
 この話だけを聞くと、どの会社も「みなし労働時間制」を使いたいと考えると思います。

 しかし、「みなし労働時間制」は使用できる職種や働き方が限定されています。
 また、労使協定を結ぶなど特別な手続きが必要な場合があります。
 「みなし労働時間制」を使いたい、もしくはすでに使っているつもりだったとしても、残念ながら要件を満たしていないということがよくあります。

(3)みなし労働時間制の要件

 「みなし労働時間制」には「事業場外労働」「専門業務型裁量労働」「企画業務型裁量労働」の3種類があり、それぞれの適用対象が定められています。簡単に整理すると次のようになります。

【事業場外労働】
事業場外で労働し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず勤務時間の算定が困難な業務
(例:直行直帰の外回り営業で、日々の業務報告義務がない)

【専門業務型裁量労働】
業務の遂行方法が従業員の裁量に大幅に委ねられた一定の業務
(研究開発、編集者、デザイナー、弁護士、公認会計士など19業務限定

【企画業務型裁量労働】
事業運営に関する事項の企画・立案・調査・分析の業務で、かつ、業務の遂行方法が従業員の裁量に大幅に委ねられている
(例:本社の経営企画部の社員)

 これらに該当する社員は、実際の勤務時間に関わらず、「所定労働時間」もしくは「業務に通常必要とされる時間」勤務したものとみなすことができます。

 仮に会社の所定労働時間が8時間で、対象となる業務も通常8時間以内で終わるのであれば、「所定労働時間」働いたものとみなすことができます。
 もちろん残業代は必要ありません。
 対象となる業務が通常9時間かかる場合は、「通常必要とされる勤務時間」が9時間となり、1時間分の残業代が発生します。

 実際に対象となる業務がどれくらいの時間かかるのかは、客観的な視点で判断する必要があります。
 残業代を払いたくないという理由から、実態と乖離した短い時間を設定するとトラブルのもとになりますので注意してください。

 また、上記の要件を満たしていれば自動的に「みなし労働時間制」が適用されるわけではありません。

 「事業場外労働」を適用し、「通常必要とされる勤務時間」が法定労働時間(8時間)を超えるときは、対象者や必要とされる労働時間等について労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
 「専門業務型裁量労働」「企画業務型裁量労働」の場合は、さらに細かな要件がありますので、詳しく知りたい方は以下の資料を参考にしてみてください。

・「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために(東京労働局)
(http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/jigyoujougai.pdf)

・専門業務型裁量労働制の適正な導入のために(東京労働局)
(http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/senmonsairyou.pdf)

・企画業務型裁量労働制の適正な導入のために(東京労働局)
(http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/201221613571.pdf)

 最後に、「みなし労働時間制」であっても、法定休日や深夜に勤務した場合の割増賃金は別途支払う必要がありますので、その点は注意が必要です。

 次回も引き続き、サービス残業問題を考えるために必要な知識等について解説したいと思います。

本連載は、下記の当社コンサルタントが順次、執筆いたします。
菊谷寛之(代表)
渡辺俊(中小企業診断士)
田中博志(中小企業診断士)
津留慶幸(社会保険労務士)

このページの先頭へ