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第31回 ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化-3-

【強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ】

 

(2014年7月)

 皆さんこんにちは。コンサルタント・社会保険労務士の津留慶幸です。
 前回、長時間・過重労働に関する法制や行政のルール等について解説しました。
 今回も引き続きこの問題について解説していきたいと思います。

2.長時間・過重労働問題
(3)労働時間の把握・管理
 ※(2)はこちら

 皆さんの会社ではどのような方法で従業員の労働時間を管理していますか?
 タイムカードが代表例として挙げられますが、その他にもパソコンのログイン・ログアウト時間、入館ゲートの通過時間、自己申告などの方法もあるようです。

 また、「わが社は従業員の自主性に任せているので労働時間は把握・管理していない」という会社にも時々お会いします。
 社員を信頼し、また、主体性を持って仕事に取り組んでもらいたいという気持ちからそうしているのだと思いますが、会社が従業員の労働時間を全く管理しないとすると残業代はどうやって払われるのかが気になります。

 「みなし労働時間制」のように実際の労働時間を厳密に把握しなくともよい方法もありますが、「みなし労働時間制」を適用できる仕事は限定されており、どの会社・職種でも認められるわけではありません。
 そう考えると、労働時間を把握・管理していない会社はいわゆるサービス残業が行われているのでは...という話にも発展します。
 「みなし労働時間制」やサービス残業の詳しい話は次回以降に触れたいと思いますが、こういった残業代支払いの観点からも、会社には労働時間を管理する責任があります。

 厚生労働省では「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関する基準」を定めており、次のような措置を講ずべきとしています。

・使用者は労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

・使用者が始業・終業時刻を確認・記録する方法は原則として、「使用者自らが確認・記録する」もしくは「タイムカードやICカードなど客観的な記録を基礎として確認・記録する」こと。

・上記の方法ではなく自己申告により行わざるを得ない場合は、労働者が適正に自己申告を行うように十分に説明を行い、自己申告時間と実際の残業時間が合致しているか必要に応じて調査を行うこと。その他、時間外労働時間数の上限の設定や時間外労働手当の定額払等の社内の労働時間に係わる措置が適正申告の阻害要因になっている場合は改善すること。

・労務管理を行う部署の責任者は、労働時間管理上の問題点の把握およびその解消を図ること

※ここでは「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関する基準」の中から代表的なものをわかりやすい表現に変えて記載しています。このほかにも定められている事項がありますので、是非、確認してみてください。
 労働時間の把握方法については、当社ホームページで連載中の「中川恒彦の人事労務相談コーナー 第27回第28回第29回」で詳しく解説していますので、こちらも参考にしてください。

 また、労働時間管理の話になると、「管理職は残業代が必要ないから労働時間を把握・管理してなくてもいいですよね」と聞かれることがあります。

 確かに管理職(名ばかり管理職は除く)には残業代や休日勤務手当は必要ありませんが、深夜勤務手当は必要です。
 そのためには深夜にどれくらい働いたかを知る必要があり、結局、管理職の労働時間も把握しておく必要があります。

 さらに、労働時間の把握・管理にはもう1つ大きな目的があります。それは、従業員の健康管理です。
 経営者や人事担当者の中には、健康は個人の問題だから会社が関与することではないと考える方もいらっしゃるようです。
 確かに、場合によってはプライバシーに関わるかもしれません。

 しかし、会社には「安全配慮義務」があり、従業員の生命・安全を確保するために必要な配慮が明確に求められています。
 長時間労働の放置はこの安全配慮義務違反と判断されることがあり、そうなれば多額の損害賠償責任を負うことにもなりかねません。

(4)長時間・過重労働に関する裁判例

 ここからは、過労死等で争われた裁判において、会社にどのような責任が問われ、どのような判決が下されたのかを見ていきたいと思います。

【電通事件】(平成12.3.24 最高裁)

<概要>
・広告代理店に勤務していた新入社員が恒常的な長時間労働により健康状態が悪化、うつ病になり自宅で自ら命を絶った。
・上司はこの新入社員が休みを取れていないことに気づき、休息を取るように指導したが具体的な策は講じていなかった。
・亡くなった新入社員の両親が損害賠償請求を行い、1審(東京地裁)、2審(東京高裁)ともに長時間労働とうつ病、うつ病と自殺に相当の因果関係を認めた。
・最高裁では、
i)使用者は「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」。
ii)使用者に代わって業務上の指揮監督権を有するもの(上司等)はこの注意義務に従って権限を行使すべきである
として、1億円を超える損害賠償を命じた。

 この事件は、過労によりうつ病にかかり自殺にまでいたったものです。
 判決の中で、使用者(上司)が長時間・過重労働になっていることに気づいていながら具体的な負担軽減措置を取らなかったことは使用者側の過失であるとしています。

 会社や現場の管理職は、「本人の自主性に任せる」のではなく、自主性は尊重しつつも会社として求められている責務を果たすために適切な指導が求められています。

もう1つ過労死に関する事件をご紹介します。

【大庄ほか事件】(平成23.5.25 大阪高裁)

<概要>
・新入社員が入社4カ月で心機能不全により死亡した。
・この新入社員の残業は月平均で100時間を超えていた。
・「役割給」という名称で月80時間分の残業代が支給されていた(※)(採用段階では役割給が残業代であることは明示されていなかった)。
・大阪高裁では、
i)月100時間を超える残業は厚生労働省の基準(第30回参照)と照らして考えると、従業員の健康に配慮していたとは言えない
ii)あらかじめ月80時間もの残業代を含んだ給与体系を見ても、会社が従業員の健康に配慮し、労働時間が長くならないよう適切な措置をとっていたとは言えない
iii)長時間労働の実態を知っていながら対策を取らなかったことは会社および取締役に責任がある
として、会社および取締役に7,800万円の損害賠償を命じた。

※実際の残業が80時間より少ない場合は、その時間に応じて減額される

 判決では、月80時間分の残業代を含んだ給与体系は従業員の健康を配慮してないと指摘されています。
 この会社のようにあらかじめ一定時間分の残業代を含んだ給与体系の会社は少なくないと思いますが、残業代未払いの指摘を恐れるあまり過度に長い時間を設定すると、健康管理の面で問題となる恐れがあります。

 ここでご紹介した2つの例はどちらも大企業ですが、中小企業でも過労死(過労自殺)により数千万円単位の損害賠償が命じられた事例があります。
 また、過労死(過労自殺)での損害賠償額は高額化の傾向にあり、中小企業にとっては、1件のトラブルでも経営を左右することにつながりかねません。
 そのような深刻な事態にならないように、事前にしっかりとした対策をとっておく必要があります。

 次回は、トラブルを防ぐための対策等について解説したいと思います。

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