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「2019年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2019.2)

株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2019年2月13日(大阪)2月19日(東京)春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

【景況分析と賃金、賞与の動向】

●日本経済の現状と2019年度の見通し

 日本経済は回復しているが、一部に弱い動きがみられる。特に目立つのが輸出の弱さであり、海外でのスマートフォンの販売不振を背景に電子部品・デバイスの輸出が軟調となっているほか、半導体製造装置といった工作機械の輸出も低迷している。こうした動きを受けて、製造業の生産活動も横ばい圏での動きにとどまっている。
 実質GDP成長率で景気の動きで確認しても、2018年に入ってから1~3月期、7~9月期で前期比マイナスとなるなど、一進一退の動きにとどまっている。2016年~2017年にかけて8四半期連続でプラス成長を達成したころと比べると、明らかに景気回復の勢いが鈍っているが、これは輸出の弱含みが影響している。
 それでも景気が腰折れしていないのは、内需が底堅いためである。内需の第一の柱である個人消費は、昨年7月の西日本豪雨や、9月の台風21号による被害や北海道胆振東部地震といった天候不順や自然災害の下押し圧力によって夏場から秋口にかけて悪化したが、これは一時的な動きであり、後述するように、良好な雇用・所得情勢を背景に、均してみると緩やかな持ち直しが続いている。
 もう一つの内需の柱である設備投資も、基調として増加している。人手不足を補うための省力化投資、五輪関連需要、研究開発投資などが活発で金額は過去最高水準にあり、一部には能力増強のための大規模な投資も増えている。
 このように内需の底堅さを背景に、景気回復の動きは維持されている。これまでの戦後の景気拡大期間の最長記録は、主に小泉政権時にあたる2002年2月から2008年2月までの73カ月であったが、今年1月には景気拡大期間が74カ月に達し、新記録を樹立した可能性が高い。
 もっとも、回復の勢いが鈍っているのも確かだ。下振れ懸念が強まる中で、今後も拡大記録を更新し続けるかどうか、国内景気は正念場を迎えている。そして、最大の下振れリスクは、米中貿易摩擦がエスカレートして両国景気が悪化し、それが世界経済に波及することである。米中両国は関税引き上げ合戦の解消に向けて協議を行っているが、対立が貿易取引のみならず、ハイテク分野の覇権争いにまで及んでおり、協議の難航が予想されている。現時点では米中経済への影響は比較的軽微にとどまっているが、このまま対立が深刻化すれば、実体経済にも影響が及ぶことになる。

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 このほか、トランプ米大統領と議会との対立、英国のEU離脱問題、中東・北朝鮮情勢などの地政学リスクの高まり、米国の金利上昇による国際金融市場の動揺などが、世界経済の悪化につながる危険もあり、注意が必要である。
 もう一つの国内景気の下振れリスクが、10月に予定されている消費増税による悪影響である。増税前の駆け込み需要の反動減に、実質可処分所得落ち込みというマイナス効果が加わり、需要低迷が長期化する危険が指摘されるが、実際には景気が腰折れすることは回避できるだろう。
 これは第一に、企業の設備投資の増加基調が維持され、五輪関連需要の盛り上がりが続くためである。加えて、首都圏での再開発案件や、次世代移動通信システムである5Gの導入など通信インフラ整備のための投資も、景気の押し上げ要因となると期待される。
 そして第二に、所得情勢の改善が続く中、個人消費が均してみれば底堅さを維持できるためである。確かに消費税増税は大きなリスクだが、増税幅が2%と前回より小幅であるうえ、軽減税率適用、住宅ローン減税強化や自動車税制の見直し、プレミアム商品券導入など増税ショックを軽減する諸策が実施されるため、駆け込み、反動減と も前回の増税時と比べて小規模にとどまろう。加えて、消費税率引き上げによる増収分の一部が幼児教育の無償化などに充当されることも、家計の負担軽減につながると期待される。
 このように、海外需要の先行きにリスクを抱えつつも、設備投資、個人消費という内需の柱に支えられて、2019年も景気回復は続く。2019年の前半は、輸出の弱さを背景に足踏み状態に陥るリスクはあるが、それも一時的な動きであって腰折れすることはないだろう。年度でみた実質GDP成長率は、2018年度の前年比+0.6%に対して2019年度は同+0.8%と、消費税率の引き上げが実施される中にあっても、5年連続でプラス成長を達成しよう。

●春闘を取り巻く環境

 次に、春闘の行方を考える上でポイントとなる企業業績、物価、雇用情勢について、足元の動きを確認しておこう。まず企業業績であるが、財務省「法人企業統計調査」によれば、経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は2017年度に+6.9%と6年連続で増加した後、2018年度上期も前年比+10.4%と増益傾向が維持されている。
 業種別に上期の動きをみると、製造業で同+14.3%と高い伸びを記録したほか、非製造業でも同+8.9%と順調に拡大している。固定費削減を中心に企業がリストラ努力を続けてきた効果に加え、景気回復を背景に売上高が増加していることが利益を押し上げている。

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 2018年度下期には内外の景気回復ペースが鈍化することや、人件費など固定費の負担が増すため、経常利益は前年比+3.8%と上期の伸び率から大幅に鈍化する見込みである。それでも、高い収益力に加え、内需底堅さ、原油をはじめとした資源価格の急落、天候不順や自然災害によるマイナス効果の剥落などが利益を下支えする。このため、企業業績が急速に悪化することは回避され、2018年度通期では+7.3%と7年連続で増益を達成し、過去最高益を更新するであろう。
 二つめに物価動向であるが、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は17年1月以降、小幅ながら前年比プラスで推移している。物価の主な押し上げ要因は、原油価格上昇によるガソリン価格や電気・ガス代の上昇である。また、為替レートが前年と比べて円安で推移しており、輸入品価格の上昇も押し上げ材料となっている。足元で原油価格が下落に転じているため、次第に物価上昇率も鈍化すると予想される。
 それでも、人件費の上昇などを反映してサービス価格が着実に上昇するなど物価が下落するリスクも後退している。一般的に、賃上げの検討の際に材料となるのは過去1年間の物価動向であり、今年の春闘では物価上昇が賃上げを後押しする要因となるだろう。
 三つめが雇用情勢である。総務省「労働力調査」によると、完全失業率(季節調整値)は18年に入ってから2%台半ばと、93年以来の低い水準で安定して推移しており、労働需給は極めてタイトな状態にある(直近の11月は2.5%)。
 同じく労働力調査の就業者数も、女性および高齢者の労働意欲が高まっていることを反映して足元で過去最高水準を更新中であり、企業の採用意欲は強い状態にある。このため、景気が一時的な足踏み状態に陥ったとしても、人手不足感が解消することは考えづらい。

●2019年春闘における賃金改定の見通し

 厚生労働省による「賃金引き上げ等の実態に関する調査」によると、企業に対して、2018年の賃金の改定の決定に当たって最も重視した要素を訊いたところ、回答のトップは自社の業績であったが、その割合は年々低下している(2013年の58.6%に対し2018年は50.4%まで低下)。
 代わって上昇傾向にあるのが、雇用の維持(同様に2.5%→7.0%)、労働力の確保・定着(同様に3.9%→9.0%)である。労働需給が年々タイト化する中で、自社の業績にとって負担になっても賃金は引き上げざるを得ない状況にあることが、改めて確認できる結果である。
 今回も安倍首相から経済界に対して賃上げに対する要請があったが、経団連は2019年の春闘の交渉方針では、政府からの要請を交渉指針に盛らない方針を固め、官製春闘からの脱却を図っている。もっとも、政府からの要請の有無にもかかわらず、また内外景気の先行きに対する懸念が増しているタイミングであっても、人手不足がより深刻化していることを背景に、企業は雇用の維持・確保を念頭に賃上げに前向きに取り組むであろう。
 労働力の不足を生産性の向上によって補うためにも、ある程度の賃上げを容認し、雇用者のインセンティブを高めることも必要である。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」によれば、2018年の春闘における民間主要企業の賃上げ率は2.26%と前年の2.11%をやや上回る堅調な伸びとなるとともに、5年連続で2%を超えた。これに対し、2019年は2.30%と、小幅ながら前年をやや上回る伸びになると予測する。

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