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「2017年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2017.2)

株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 土志田るり子
(2017年2月15日(大阪)2月17日(東京)春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

【景況分析と賃金、賞与の動向】

●日本経済の現状と2017年度の見通し

 日本経済は、2016年度上期までは横ばい圏での動きにとどまっていたが、足元では横ばい圏から脱し、緩やかに持ち直している。
 16年夏にかけての世界景気は、中国で景気減速の動きが見られたことや、英国の国民投票でEU離脱が多数となったことを受け、一時的に先行き不透明感が高まった。しかし、中国の景気減速の動きが一服し、英国のEU離脱も即座に影響が出るわけではないことが明らかになったのに加えて、米国景気が底堅く推移したため、秋以降、先行きに対する懸念は後退した。
 こうした中、7~9月期の日本の実質GDP成長率は、輸出がけん引役となって前期比+0.3%となり、3四半期連続のプラス成長を達成した。
 16年度下期以降も、日本経済は内外需の増加を背景に緩やかな持ち直しが続くだろう。10月以降も生産や輸出の増加基調が維持されるなど、景気は企業部門を中心に緩やかに持ち直している。設備投資は、実質GDPベースでは7~9月期に前期比▲0.4%と減少したが、均して見れば緩やかに増加している。
 今後も人手不足を補うための投資や維持・更新投資、情報化投資などが行われるとみられる。個人消費も、総務省「家計調査」では11月の実質消費支出(二人以上世帯、季節調整値)が2ヶ月連続で前月比マイナスとなるなど、弱い動きもみられるが、年末にかけて新車登録台数が2ヶ月連続で前年比2ケタの増加を記録しており、均して見ると横ばい圏での推移が続いている。また、年度末にかけて16年度補正予算による押し上げ効果が高まることも明るい材料である。
 外需についても、世界景気の回復基調が続くと期待され、輸出は持ち直しの動きが続くと見込まれる。16年11月にトランプ氏が新大統領に決まって以降、同氏の公約である大規模な減税や公共投資が米国経済を拡大させるとの期待感から、年末にかけて米金融市場ではドル高・株高が進んだ。同時に日本では円安が進展しており、16年下期以降の輸出の追い風になるだろう。
 ただし、米国新政権の政策が公約通りに進まず、景気拡大期待が後退したり、トランプ相場が崩れたりすれば、世界経済の悪化懸念が高まり、日本経済にも下振れリスクが出てくる。リスク回避の円高が進み、輸出企業を中心に業績にも悪影響が出ることになるだろう。
 実質GDP成長率は16年10~12月期以降も前期比プラスが維持され、17年度は前年比+1.0%になると予測する。

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●春闘を取り巻く環境

 ここでは、春闘の行方を占う上で重要な、企業業績、物価、雇用情勢について、足元の動向を整理しておこう。
 財務省「法人企業統計調査」によると、16年度上期の経常利益(金融・保険業を除く全産業、全規模)は前年比▲0.8%の35.2兆円と、減益となった。
 業種別に見ると、製造業は同▲18.0%と大きく落ち込んだ。円高によるマイナスの効果が大きく、輸出比率の高い「生産用機械」、「輸送用機械」などの加工業種のほか、原材料費が高騰した「鉄鋼」などの素材業種でも落ち込んだ。
 非製造業では前年比+8.7%と増加した。しかし、増加の大部分は「サービス業」に含まれる純粋持ち株会社の受取利息等の大幅増加という一時的な押し上げ要因によるもので、その他多くの業種で経常利益は前年比マイナスとなった。
 もっとも、企業業績は上期中に底打ちした可能性がある。7~9月期の経常利益の季節調整値を見ると、前期比+7.9%と2四半期連続で増加した。これ自体は前述の一時的な押し上げ要因によるところが大きいが、7~9月期の売上高が7四半期ぶりに前期比プラスとなったほか、製造業の経常利益も2四半期連続で前期比プラスとなっている。
 このように、一時的な押し上げ要因を除いても企業業績は持ち直しに転じたとみられ、16年度下期の企業業績は改善が見込まれる。11月の米国大統領選挙以降、円安が進んだことに加え、足元で企業の生産活動が活発化している。
 また、これまでのリストラ効果によって高収益体質が維持されていることも、業績改善の要因になるだろう。ただし、米国大統領選挙後に進展した円安・株高が円高・株安に転じれば、業績の改善が一時的なものにとどまる可能性もある。
 次に物価であるが、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は16年3月以降、前年比マイナスでの推移が続いている。11月以降の原油価格上昇や為替円安の進展の影響で、このところガソリン価格が上昇している。電気・ガス代や輸入品の価格も次第に上昇してくると考えられるが、それでも、物価(生鮮食品を除く総合)上昇率がプラスに転じるのは4月以降になるとみられる。
 これまで多くの企業において、物価を賃上げの検討材料とする際には、物価の先行きよりも過去1年間の実績を参考にしてきた。そのため、通常であれば、今年の春闘で物価は賃上げを後押しする材料にならない。安倍政権は、足元の物価動向にとらわれずに期待物価上昇率を考慮した賃上げをするよう、経済界に要請しているが、物価上昇の実績がない中、企業が今年から急に期待物価上昇率を考慮するとは考えにくく、この呼びかけが奏功するかは不明である。
 最後に雇用情勢であるが、労働需給は引き続きタイトな状態にある。総務省「労働力調査」によると、16年度上期の完全失業率は3.1%まで低下している。
 同期の厚生労働省「一般職業紹介状況」を見ると、有効求人倍率(パートタイムを含む)も1.36倍と、まだバブル景気の余韻が残っていた91年並みの水準となっている。今後、景気が持ち直す中で、労働需給はさらにひっ迫すると考えられ、当面、需給面からは賃金が上がりやすい環境が続くことになりそうだ。

●2017年春闘における賃金改定の見通し

 過去3年の春闘では、政府が経営側に賃上げを強く要請したことが追い風となり、昨年、16年の民間主要企業の賃上げ率は厚生労働省の調査で2.14%となった。3年連続で2%を超えており、今年も「官製春闘」によって2%を超える賃上げが行われるかが注目される。
 しかし、過去3年間にベースアップ(ベア)を実施した企業が多いことや、企業業績に下振れリスクがあることを勘案すると、ベアを含めた賃上げを行う企業の数は昨年を下回り、ベアを実施する企業でも、昨年より小幅な増加にとどまるだろう。厚生労働省ベースの賃上げ率は昨年の2.14%を下回る2.0%程度になると予測する。
 今年の賃上げを予測する上でのポイントは、まず、企業業績である。前述のとおり、足元で企業業績は改善しており、数字だけをみればベアを後押しする材料となる。しかし、足元の改善は米国大統領選後の円安・株高で押し上げられているに過ぎないとみる企業が少なくない。トランプ大統領の発言や政策変更で米国経済の拡大期待が急速にしぼむリスクや、市場の動きが急転換するリスクが意識される中で、経営側は固定費の増加にあたる賃上げをしにくいと言える。
 2点目は、4年目となった「官製春闘」で、経営側が政府からの賃上げ要請にどのような形で答えるか、という点である。
 政府には、賃上げが止まればデフレに逆戻りするという懸念があり、経営も賃上げには前向きな姿勢を示している。しかし、過去続けてベースアップをしてきたこともあり、経団連は今年の春闘の方針として、すでに「年収ベースでの賃上げ」を打ち出している。
 年収ベースの賃上げとは、賞与や手当を増やして、合計の所得を増やす形で賃上げを行うことで、これにより固定費の増加を避けることができる。過去、続けてベアを行っている企業では固定費の負担が増えつつあり、経団連の方針に沿った回答をする企業も一定数あると予測する。そうなれば、年収は増えたとしても、ベアの数字は弱くなる。また、働き方改革が意識される中で、賃上げではなく労働時間の短縮など、就労条件の改善で対応する企業もあるとみられる。
 そのほか、春闘での賃上げの結果が中小企業にも波及していくかという点も注目される。

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