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景気は回復基調を取り戻せるのか?~2012年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し(2012.2)

株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 尾畠未輝
(2012年2月21日・東京、23日・大阪会場・春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連資料」より)

【景況分析と賃金、賞与の動向】

●景気の現状と2012年度日本経済の見通し

 このところ国内景気は持ち直しテンポが緩やかになっている。
 2011年7~9月期の実質GDPは前期比+1.4%(年率+5.6%)と4四半期ぶりのプラス成長となったものの、その後の景気回復の勢いは鈍い。内外での需要の弱まりに加え、一部の業種で在庫が積み上がり在庫調整圧力が強まっていることもあって、生産の回復の勢いは弱まっている。また、10~12月期の実質輸出は前期比-3.9%(季節調整済)と減少し、輸出にも減速の動きが出ている。
 この背景には、世界経済の拡大ペースが鈍化していることがある。とくに、財政金融危機に直面している欧州では、景気の停滞感が強い。ユーロ圏における2011年7~9月期の実質GDPは前期比+0.2%(年率+0.6%)とかろうじてプラス成長を維持したものの、極めて低い伸び率にとどまった。
 また、その後に発表された総合景況指数や消費者信頼感指数などの経済指標には、悪化を示すものが散見される。さらに、欧州における財政金融危機の影響によって、世界の金融市場は不安定な動きが続いている。投資家のリスク回避姿勢は強く、相対的に安全資産とされる日本国債や米国債が選好され、日米の長期金利は低水準で推移している。また、同様の理由で日本円も買われ、対ドル相場は70円台後半という史上最高値圏での動きが続いている。

 海外景気の回復ペースが鈍化していることもあって、目先の国内景気は停滞局面が続くとみられる。2011年度の実質GDP成長率は前年比-0.4%と、震災直後の大幅な落ち込みが影響して、2年ぶりのマイナス成長に陥る見込みである。
 もっとも、12年度になると、アジア経済や米国経済の底堅さや、それを受けての欧州経済の底打ちによって、海外景気の回復ペースが再び高まってくると予想される。輸出環境が好転することにより国内景気も徐々に持ち直しの動きが強まってくるだろう。また、第3次補正予算の成立を受けて、年度前半を中心に公共投資が続くなど復興需要が本格化し、景気を押し上げる。12年度の実質GDP成長率は前年比+1.8%とプラス成長に戻る見込みである。

 東日本大震災の発生から間もなく1年を迎えようとしている。しかし、被災地ではがれきの処理や除染作業などに時間がかかっており、住居の高台移転など大規模な復興はおろか、最低限の安定した生活を送るための復旧さえもなかなか進んでいない。復興需要が日本全体の景気を押し上げる一方で、被災地では12年度も引き続き厳しい状況が続く可能性があることを忘れてはならない。

●賃金を取り巻く環境 ~企業収益および雇用の動向

 震災後に大きく悪化した企業収益は、足元でも低迷が続いている。法人企業統計でみると、2011年7~9月期の経常利益(全規模・全産業)は、前年比-8.5%と2四半期連続で減少した。さらに、円高の進行も輸出企業にとっては逆風となった。企業は輸出競争力を保つため円高を輸出価格に十分転嫁できていない。とくに、下請け会社である中小企業では、大企業のように為替変動のリスクをヘッジ出来ていないことが多い上、親会社からコスト削減のための協力を強く求められるなど、円高による悪影響のしわ寄せを受けやすい立場にあり、状況はより厳しい。

 今後も、国内景気の拡大ペースが弱まる中では売上高の大幅な伸びは期待できず、企業収益はしばらくの間低迷が続くと見込まれる。11年度下期の経常利益は前年比-12.4%と2半期連続で減少する見込みだ。11年度全体では前年比-12.1%(43.7兆円)と、水準は金融危機の影響を受けた08、09年度は上回るものの、3年ぶりに減益に転じるだろう。その後は、復興需要や輸出の底堅さを受けて生産が持ち直しに転じることを背景に、経常利益も緩やかながらも改善していくと見込まれる。12年度の経常利益は前年比+7.4%と増益に転じる見通しであるが、リーマン・ショック以前の水準に戻るまでにはかなり時間がかかるとみられる。

 雇用情勢についてみると、2011年9月に4.1%(季節調整値)まで低下した完全失業率は、2011年11月には4.5%(同)と、震災発生前とほぼ同水準にまで上昇した。震災の影響などで求職活動を見送った人が増えたことで失業者が見かけ上減ったために、一時的に失業率が押下げられていたに過ぎない。就業者数はリーマン・ショックによって大きく落ち込んだ後、水準は依然として低いままである。今後は、人々が再び職探しを始めることで失業者が増加する可能性がある。また、被災地では雇用のミスマッチ問題が深刻なことに加え、震災を受けて延長措置がとられてきた雇用保険失業給付の給付期限が到来し始めており、雇用情勢は正念場を迎えている。

●2012年春闘賃金改定の見通し

 厚生労働省がまとめた2011年の民間主要企業(資本金10億円以上かつ従業員規模1000人以上の労働組合のある企業)の賃上げ率は1.83%と3年ぶりに上昇した。2011年の春闘では、当初予定されていた「集中回答日」は震災直後にあたる3月16日となっていた。復旧作業を優先し回答を延期した企業が多かったが、自動車や電機などでは復旧作業に集中するため交渉をなるべく速やかに終わらせたいとの考えから予定通り実施した大手企業もあった。
 いずれにせよ、日本経済の先行きがほとんど見通せていない中で行われた2011年の春闘では、震災による企業収益の実際の落ち込みを回答に十分織り込めていなかったとみられる。このため、2012年の春闘は東日本大震災の影響が反映されることになるだろう。

 日本経済は依然としてデフレ脱却の目処が立っていない。また、震災に加え円高の影響もあって、企業を取り巻く収益環境は厳しい。企業は景気の先行きに慎重な見方を続けており、当面、人件費抑制姿勢を維持するだろう。さらに、賃金改善よりも雇用確保を優先させるという考えは労使とも強い。総じて見ると、現在は大幅な賃上げを行えるだけの環境が整っているとは言い難い。2012年の民間主要企業(同)の賃上げ率は1.78%と、2年ぶりに前年(1.83%)を下回ると予測する。
 ただし、収益格差や個別企業の事情を背景に、規模や業種別で賃上げ率はばらつきが広がるとみられる。とくに、地方や中堅、中小規模の企業などでは厳しい状況が続いており、賃上げ率が前年を下回るだけにとどまらず、賃上げに関する交渉を行う余裕さえないという場合もあるだろう。

 2012年1月25日、日本経済団体連合会(経団連)と日本労働組合総連合会(連合)のトップ会談によって、今年の春闘が事実上開始された。
 連合は、昨年に続き、定期昇給の維持に併せ一時金などを含めた「給与総額の1%引き上げ」求める方針を決めた。しかし、個別の労働組合についてみると、電機連合や基幹労連の一部、全トヨタ労組などでは、定期昇給の維持は求めるものの、ベースアップ(賃金改善)の統一要求を断念する方針が現時点で既に決定されている。
 一方、経団連はベースアップの実施は論外とする上、昨年は容認した定期昇給についても「延期・凍結を含め厳しい交渉を行わざるを得ない」との方針を示している。2012年の春闘は難航が予想されよう。

 最近では、春闘のあり方そのものの抜本的な見直しを求める声が強い。近年、企業は収益動向にかかわらず人件費抑制姿勢を維持する傾向にあり、収益が改善した時でさえも増収分は定期昇給やベースアップではなく一時金として配分する傾向が強い。
 一方、労働組合としても従来のような年功序列型のベースアップの要求が難しくなっているため、雇用維持や定期昇給の確保に重点を置きベースアップを見送ることが多い。実際、2000年度以降は春闘における賃上げのほとんどが定期昇給によるものとなっている。
 経団連は、「賃上げを横並びで交渉する時代は終わった」として、春闘を"労使パートナーシップ対話"と名称を変え、労使が一体となって国際競争に打ち勝つための建設的な議論の場とすることを提唱している。グローバル化が進み多様な企業や雇用形態がみられるようになり、ワーク・ライフ・バランスに対する人々の関心と重要性が高まる中で、賃上げだけにとどまらない春闘の存在意義が求められている。

【景況分析と賃金、賞与の動向】は、プライムコンサルタントが主宰する「成果人事研究会」の研究会資料「プライムブックレット」の内容の一部をご紹介するものです。

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