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「アベノミクス」の真の主役(2013.6)

株式会社プライムコンサルタント代表  菊谷寛之
(2013年6月5日,開催・夏季定例研究会ブックレット「はじめに」より)

【人材マネジメントを展望する】

 今日のグローバル経済を支える大量生産・大量販売は、1910年代のアメリカに遡る。
 フォードは、自動車生産に初めてテーラーの科学的管理法を適用し、熟練工によらない仕事の細分化・標準化とベルトコンベアーによる流れ作業を実現した。
 T型フォードに経営資源を集中することで飛躍的に生産性を向上させ、販売価格を大幅に下げ、自動車を社会に普及させただけでなく、世間の倍額の日給5ドルを支給して良質の労働者を確保した。
 後には「生産性インデックス賃金」や団体交渉制度を導入して従業員の士気を高め、これがさらなる生産性向上の足がかりとなった。

 このような循環的な経済成長の基本経路は「フォーディズム」と呼ばれる。
 技術革新による生産性の上昇につれて実質賃金が上昇し、それが大量消費へとつながり、その消費が再び投資を刺激した。米国資本主義の黄金期はこうしてスタートした。

 高度経済成長期の日本でも同じようなことが起こっている。
 戦後の復興や人口増加、輸出の増加などを見込んだ積極的な投資が需要を生み、生産性が大幅に向上した。
 春闘方式により賃金が上昇、それが消費に回って総需要がさらに拡大するという生産・消費・投資の好循環が起きた。

 しかし豊かな社会に移行し、市場の成熟とともに多品種少量生産に移行するにつれ、大量生産のスケールメリットは次第に失われる。
 事業の複雑化に対応するため、知識労働やサービス労働に大きなコストがかかり、前よりも利益が出にくくなった。
 他方では、働き手を断片的に部品化する監視的な労働内容が労働者の反発や無気力を招き、設備投資をしても思うように結果が出なくなった。

 企業は、利益確保のために賃金を抑制せざるを得なくなる。
 日本でも1990年代のバブル崩壊後、総人件費の抑制策が進み、年功序列賃金の修正や労働の流動化・市場化、非正規労働の増加が進んだことは周知のとおりである。

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 しかし生産年齢人口が減少する中で長く賃金抑制を続ければ、消費の低迷は避けられない。物価は上がらず、投資も減少する。
 リーマンショック後の景気後退をきっかけに、国内市場は一気に冷え込んだ。
 多くの企業が賃金凍結や賃下げを余儀なくされ、ますます消費が低迷するというデフレの悪循環が起きている。

 昨年の政権交代で、日本経済に再び成長力を取り戻そうという「アベノミクス」が始まった。
 前例のない大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」は市場心理を大きく変え、昨年末からの円安・株高は世界の注目を浴びている。

 しかし一時的なマネーの流入による市場の高揚感と本物の経済成長とは別物である。
 「成長戦略」の3本目の矢を放つ真の主人公は、政府でなく企業であろう。
 企業が的を射た事業戦略を打ち出し、社員や取引先と協力して市場に機会を見出し、需要を創出し、生産性を向上させ、その果実を賃金上昇につなげなければならない。

 学習する組織の概念を提唱するピーター・センゲは、「自己拡張型の成長プロセスでは、組織としての成果と個人としての成果が同時に生みだされ、信頼ある人間関係が築かれていく」と説いている。
 フォーディズムや安定成長期までの日本がそうだったように、企業と社員がともに成長し、経済的果実を従業員や下請に還元する中で、社会に信頼関係を築いていく新たな経路を切り開いていかねばならない。

【人材マネジメントを展望する】は、プライムコンサルタントが主宰する「成 果人事研究会」の研究会資料「プライムブックレット」の内容の一部をご紹介 するものです。

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