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法定内の所定時間外労働に対してはいくらの賃金を支払うべきか-2-(連載第91回)

【中川恒彦の人事労務相談コーナー】

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(2014年6月)

Q当社の所定労働時間は1日7時間30分(週37.5時間)で、所定労働時間を超えた最初の30分については労働基準法の定める8時間を超えませんので、割増賃金率を掛ける前の時間当たり賃金の半額を支払っています。
 ところで、このような法定内の所定時間外労働に対して就業規則に定めがある場合には、その就業規則で定められた賃金を支払えばよいという通達があると聞きましたが、どのような内容なのでしょうか。
 現在のところ、当社の支払方法を変更するつもりはありませんが、法的な限界点を知っておきたいと思います。

A 「所定労働時間が7時間の場合、所定労働時間外の1時間については別段の定めがない場合には、原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。
 ただし、労働協約、就業規則等によって別に定められた賃金額がある場合にはその額で差し支えない。」とする行政通達があります。
 しかし、裁判例等を考えた場合、少なくとも通常の時間当たり賃金(質問の場合はその半額)を支払うこととするのが妥当と考えられます。

〔解説〕

 前回は、法内残業に対する賃金について考えられる4種類の支払方法、すなわち、

(1)法内残業に対する賃金については、これを支払えと定めた法令はなく、支払義務はない。
(2)就業規則等によって定めた賃金額で差し支えない(行政通達の見解)。
(3)少なくとも最低賃金額は支払わなければならない。
(4)通常の労働時間の賃金(1.0)を支払わなければならない。

のうち、(1)~(3)について説明しました。
 今回は、(4)について説明するとともに、留意すべき事項についても触れることとします。

(4)通常の労働時間の賃金(1.00)を支払うべき

 法内残業に対して支払うべき賃金については、前回説明した「(1)支払義務なし」「(2)就業規則等で定めた賃金額」「(3)最低賃金額」のいずれも難点があり、「少なくとも通常の労働時間の賃金を支払うべき」という方法がもっとも妥当と考えます。

 労働基準法第32条は、1週間については40時間を、1日については8時間を超えて労働させてはならない旨を定めています。
 また、時間外労働の割増賃金は、第32条に定める労働時間を超えた場合に支払わなければなりません。

 すなわち、労働基準法上割増賃金を支払わなければならない時間外労働というのは、所定労働時間を超える労働ではなく、1日8時間を超えるかまたは1日8時間を超えていなくてもその週の労働時間が40時間を超えることとなる労働をいいます。

 したがって、所定労働時間が7時間の場合、たとえ所定の7時間を超えて1時間残業しても、労働した時間はまだ8時間を超えていませんから、1週間の法定労働時間を超えない限り、時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。

しかし、何も支払う必要がないということではありません。
 1日の所定労働時間が7時間であるということは、日給制の場合は7時間働けば所定の日給が、月給制の場合は毎日7時間働いていけば所定の月給が支払われるわけですから、1時間余計に働かせれば(法律上割増賃金を支払う必要はないにしても)、それなりの加給が必要であるということになります。
 このような場合は、原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければなりません。

 例えば、その労働者の日給が7000円であるとすると1時間当たり賃金は1000円ですから、所定労働時間を超える1時間の残業に対して1000円を支払わなければなりません。

 前回紹介したとおり、行政通達では、労働協約、就業規則などにその1時間の残業に対して特別に賃金額を定めている場合は、その賃金額を支払ってもよいことになっています(昭和23.11.4 基発第1592号)が、その残業中の労働が所定労働時間中の労働と同様のものである場合には少なくとも通常の労働時間の賃金(上記例でいえば1000円)を支払うこととするのが妥当です。

 裁判例においても、法内残業に対する賃金について、

 労働契約においては、労働と賃金が対価関係に立つ以上、無給であるとするのは、当事者意思に反し不合理であって、特段の事由のない限り「通常の労働時間の賃金」が支払われる旨合意されていると解するのが相当である。
 (ユニコン・エンジニアリング事件 平成16.6.25 東京地裁判決)

とするものがあります。この判決についての説明は不要でしょう。

 また、

 労働基準法に照らすと、被告においては1日当たり実働7時間分の日給が支払われているので、536日の536時間分(筆者注:訴訟対象となった期間中の労働日に おける所定超えの最初の1時間分の合計のこと)は法内残業として基礎賃金額を支払うこととなり、残りの時間につき基礎賃金の1.25倍の割増賃金の支払いが必要になる。
 (総設事件 平成20.2.22 東京地裁判決)

とする裁判例もあります。

 すなわち、所定労働時間を超える時間の労働に対し、法内残業に対しては基礎賃金額(通常の労働時間の賃金のこと、すなわち1.00)の支払いが、法定労働時間を超える時間外労働に対しては基礎賃金額の1.25倍の割増賃金の支払いが必要といっています。
 法内残業については通常の労働時間の賃金(1.00)を支払うのは当然であるといっているわけです。

 そもそも、所定時間内と同じ労働を継続して行っているのに、別立ての(しかも低額の)賃金を支払うということに合理性はあるのでしょうか。
 同じ労働を継続している以上、賃金も同じ率でというのはきわめて当然のことではないでしょうか。

 法内残業における労働の内容が、所定時間内における労働と異質のものであるというような特別の事情がある場合はともかく、所定時間内と同様のものである場合には、少なくとも「通常の労働時間の賃金」を支払うというのが最も妥当な、すっきりした、かつ、素直な処理であるといえます。

2 その他の留意事項

(1)行政上の対応と民事上の処理

 今回の回答は、「行政通達」の見解と異なっています。 
 上記に紹介した通達がある以上、行政(労基署)としてはこの通達に従った取扱い(別に定めた賃金額があればそれで差し支えないという取扱い)がされますが、民事裁判等で請求された場合は、法内残業については「通常の労働時間の賃金」の支払いが命ぜられる可能性は高いと考えられます。

(2)不利益変更の問題について

 質問では、「通常の労働時間の賃金を支払う」という現在の取扱いを変更するつもりはないということですから、コメントの必要はないと考えますが、もし、従来の取扱いを労働者に不利益に変更する場合には、不利益変更に関する労働契約法の規定(第8条~第10条)に配慮する必要があります。

(3)法内残業に対する賃金に関する実際の企業の対応

 質問が「通常の労働時間の賃金を支払うべきか、それとも就業規則で定めた賃金でもよいか」というものでしたので、今回のような回答になっていますが、各企業においては、法内残業に対しても割増賃金を支払っているところが多く存在します。

 産労総合研究所が2012年に行った調査(大企業ばかりではありません。半数近くは299人以下の企業です。)によれば、「所定労働時間を超え8時間以内の時間外労働に対する賃金」について、100%とする企業32.0%に対して、125%以上とする企業は66.4%となっており、調査企業の3分の2は、割増賃金を支払っています。

 法的理屈はともかくとして、現実には、就業規則で定めた賃金額とか最低賃金額のように通常の賃金よりも低額な賃金を支払っている企業はほとんどないということです。

(4)労働時間法制改正の動きについて

 現在、「ホワイトカラーエグゼンプション」の問題が取りざたされていますが、具体的な内容はこれから検討されるものであり(来年の通常国会に提出される予定)、また、この対象者は、裁量労働制の対象になるような労働時間について自己決定ができる者とか、管理的な業務に従事する者とか、年収が一定額以上の高収入の者などに限定される予定であり、平均的な労働者についての労働時間適用の状況には変更がないと考えられます。

 したがって、今回のような問題についての考え方にはほとんど影響はないと考えられます。

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