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在職中死亡した労働者の退職金は誰に支払うか-2-(連載第100回) 

【中川恒彦の人事労務相談コーナー】

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(2014年11月)

Q 当社の退職金規程には、「従業員が在職中死亡した場合の退職金は、労働基準法施行規則第42条ないし第43条の定めるところによる。」と規定してありますが、現在まで在職中従業員が死亡したケースはありません。
 労働基準法施行規則第42条と第43条を見てみると、労災の遺族補償に関する規定で、第一番に「配偶者(婚姻の届出をしていなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする。」とあります。
 ということは、内縁の配偶者にも支払うということで、相続とは関係ないような規定になっていますが、問題はないのでしょうか。
 当社の退職金規程の疑問をお聞きするのも申し訳ありませんが、法的にはどうなるのでしょうか。

A 労働者が在職中死亡したときの退職金について、単に「遺族に支払う」といった程度の規定しかない場合には、民法の一般原則に従い、相続人に支払う趣旨と考えられますが、労働基準法施行規則第42条ないし第43条に定める順位によって支払う旨定めた場合には、その定めは有効であり、同施行規則に定められた対象者が退職金の受給権者となります。

〔解説〕

今回は、死亡退職金の受給権者に関する裁判例を紹介します。

5 死亡退職金の受給権者に関する裁判例

 行政の見解は前回説明したとおりですが、就業規則に定められた受給権者が本当に相続人より有利な立場に立ち得るのかについて、裁判例はどういっているかを見てみましょう。

(1)退職金規程の定め方に基づき判断した裁判例

1) 死亡退職金の受給権は就業規則に定められた受給権者固有の権利であるとされた例
      (福岡工業大学事件 昭和60.1.31 最高裁判決)

〔事件の概要〕
 この事件の上告人(一審被告)は、死亡した労働者と約12年間内縁関係にあったいわゆる内縁の妻であるが、彼女が母方の伯父の養子となっていた関係上伯父に適当な承継者ができるまでは婚姻の届出をしないとの合意に基づき、内縁関係に止まっていたもののようである。
 被上告人(一審原告)は、死亡労働者の養子(相続人)である。
 使用者である福岡工業大学は、本件退職金(約450万円)の帰属につき争いが生じたため、債権者を確知することができないとして法務局に供託したため、内縁の妻と養子との争いとなった。
 一審、二審ともに、本件退職金の受給権者は死亡労働者の唯一の相続人である被上告人(一審原告)であるとしたが、最高裁は、次のように述べて、事実上婚姻関係と同様の事情にあった上告人が退職金の受給権者であるとした。

〔判決要旨〕

退職金規程6条によれば、死亡退職金の支給を受ける遺族は、(1)職員の死亡の当時主としてその収入により生計を維持していたものでなければならず、(2)第1順位は配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)であり、配偶者があるときは子は全く支給を受けない、(3)直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となる、(4)嫡出子と非嫡出子が平等に扱われる、(5)父母や養父母については養方が実方に優先する、ということになる。
 すなわち、死亡退職金の受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは著しく異なった定め方をしているのであり、これによってみれば、右規程の定めは、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当である。

 このように、最高裁は、民法上の相続人ではなく、退職金規程に定められた受給権者に受給権があるという見解をとっていいます。
 判決要旨から窺われるところからすれば、福岡工業大学の退職金規程は労働基準法施行規則第42条の規定とほぼ同様のようですが、実際は、私立学校教職員共済組合法を準用しています。
 いずれの規定も似ているということです。

 なお、この事件は、判例雑誌では「福岡工業大学事件」という名前が付けられていますが、実際の原告・被告は、死亡労働者の養子と内縁の妻であり、大学は裁判の当事者ではありません。
 退職金を供託することにより裁判当事者になることから逃れたといえるでしょう。
 また、相続人である原告の訴えは、退職金のみならず、内縁の妻が死亡労働者と生活していた死亡労働者名義の不動産の引渡し、明渡しに至るまでの賃料の支払い等もあります。法的には、相続人の要求は、退職金を除き、当然といえるでしょう。

 退職金についても、一審、二審は原告である相続人に軍配を上げましたが、被告(内縁の妻)が、退職金に関する部分のみを上告し、ようやく認められたものです。

2) 相続人の順位と異なる規定は設けられておらず退職金は相続財産となるとされた例
     (大阪産業大学事件 平22.9.10 大阪地裁判決)

〔事件の概要〕
 本件は、破産者の破産管財人が、破産者の亡夫が勤務していた被告大学に対して、破産者は退職金規程上の退職金受給権があるとして支払いを求めたものである。
 裁判所は、被告大学の退職金規程には死亡退職の場合に受給権者を特定するような規定は存在しないとして、原告の請求を棄却した。

〔判決要旨〕

 本件退職金規程3条は、退職金の受給権者について、「相続人」ではなく「遺族」という文言が使用されている。
 しかし、i)本件退職金規程には、退職金受給権者の範囲及び順位について、民法の規定する相続人の順位決定の原則と異なる規定は設けられていないこと、ii)本件退職金規程3条は、その規定文言からして、本人に退職金の受給権があることを前提としていると解され、そうすると、同条にいう「遺族」とは、相続人を指すと解するのが相当であること、......以上の事情を総合して勘案すると、同規程に基づく退職金支払請求権は、遺族固有の権利であるとは解し難く、相続財産に含まれるものであると解するのが相当である。

 被告の退職金支給規定には「本人が死亡し、その他の事由により退職金を受け取ることができないときは、その遺族に支払うものとする。」と規定されていましたが、裁判所は、受給権者について相続人とは異なる順位を定めた規定がない場合には、退職金請求権は相続財産に含まれるとしました。

 前回紹介した解釈通達とも同様の見解であり、至極当然の結論といえます。
 なお、本件は、事件としては変なところがあり、破産者が死亡退職者の妻であるならば、遺族固有の権利であろうと、相続人としてであろうと、いずれにせよ、第1順位者として退職金の請求ができると思われますが、実は、妻は夫の死亡直後かつ自身の破産宣告前に相続放棄をしており、相続人として請求できる道を自らふさいでしまっていたので、破産管財人としては退職金規程に基づく遺族固有の権利として請求するほかなかったようです。

 以上、労働者が在職中死亡した場合の退職金に支払いについての解釈通達の見解と、これとほぼ同様の見解に立つ裁判例を紹介しましたが、最後に、労働者死亡の場合の退職金の支払いについて留意すべき点について簡単に触れておきます。

1) 正当な受給権者が不明な場合は、退職金を法務局に供託することも企業としての解決法の1つです。
 ただ、自社の規程の曖昧さを理由に供託するというのも、法務局にとっては迷惑な話です。退職金受給権は退職金規程によって指定された受給権者固有の権利とされている以上、企業としては、死亡退職者の自社に対する功績に最も助力のあった者を中心に据えながら、できる限り受給権者を特定するよう努めるべきでしょう。
2) 退職金規程の定めに基づき内縁の妻等に支払われた退職金は、民法上は相続財産ではありませんが、税法上は相続税法が適用されます。
3) 死亡退職金と異なり、定期払いの賃金等は、労働者が労働したことによって、既にその権利を取得していたわけですから、その労働者が死亡した場合は相続財産となるものと考えられます。

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