退職後同業他社に就職した労働者の退職金を返還させることができるか-2-(連載第111回)
【中川恒彦の人事労務相談コーナー】(2015年5月)
競合へのノウハウ等の流出を防ぐため、転職に一定の制約・義務を課した誓約書をとっている会社もあると思います...
今回も前回に引き続き、関連する裁判例をご紹介しながら、競業避止義務と退職金を考える際のポイントを解説しています。(ホームページ編集部)
Q 最近、当社を退職した従業員が3カ月後にライバル会社に就職していたことが判明しました。
退職金は退職1カ月後に支払済みですが、ライバル会社に就職された場合は当社の営業方針等が漏れる可能性も高いので、退職時に「退職後1年間は同業他社には就職しない」旨の誓約書をとっております。
この場合、この退職者に退職金の返還を求めることができるでしょうか。
A 労働者には職業選択の自由がありますから、基本的には、退職後どのような職業に就くか、どのような企業に就職するかは、本人の自由です。
しかし、退職した労働者が同業他社に就職し、自社のノウハウ等を同業他社に利用されたのでは多大の損害を被ることになります。
そこで、そのような可能性が危惧される場合には、退職後一定期間、同業他社に就職しないよう求め、期間内に就職した場合は退職金を不支給とし、すでに支給していた場合はその返還を求めることも可能です。
ただし、退職金不支給、返還請求に関する規定を整備しておくとともに、退職金不支給措置の理由について説明できることが必要です。
〔解説〕
前回に引き続き、退職後同業他社に就職した労働者への退職金不支給の可否に関する裁判例を紹介します。
(3)退職後一定期間は同業他社に就職しない旨の誓約に違反した労働者に対する退職金支払いを命じた例
(東京コムウェル事件 平成15.9.19 東京地裁判決)
〔事件の概要〕
被告会社の退職金規定には、「就業規則の定めるところにより懲戒解雇された場合は退職金を支給しない。」(第3条)、「退職金は、退職の日より60日以内に全額通貨で支給する。ただし、自己都合により退職した者で就業規則に抵触すると思われるものでその調査期間中についてはこの限りではない。」(第8条)という